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2003年11月02日(日)
◆ ダニエル・バレンボイム指揮 シカゴ交響楽団、シルヴィ・ギエム&東京バレエ団 【奇跡の饗演】『春の祭典』『火の鳥』『ボレロ』


15:00開演、東京文化会館、

《奇跡の饗演》と銘打ち、アメリカの歴史ある名門オケ、シカゴ交響楽団と同団の第9代音楽監督を務める指揮者ダニエル・バレンボイムが、たった2日間だけ、オケ・ピットに入り、通常テープ演奏で踊られることが多い、振付家モーリス・ベジャールの初期3作品を特別に演奏し、さらに世界的人気のプリマ、シルビィ・ギエムが『ボレロ』の円卓に上ってくれるというスペシャルな企画です。

東京バレエ団のレパートリーでも特に人気のベジャール・プログラムですし、音楽も誰もが、極上のオーケストラで聴きたくなる素晴らしい作品でもある訳ですから、クラシックファンにも注目の公演ですね。
バレエファンには、音楽の持つ本来の迫力や広がり、新たな魅力を気付かせ、クラシック音楽のファンでバレエをほとんど見ない方には、ダンサーの研ぎ澄まされた肉体表現の素晴らしさと、ベジャール振付作品の感性や面白さを、それぞれが認識しあえる、きっかけになるのではと思いました。

まぁ、さすがにチケット料金も破格でしたが、行けば良かったと後で悶々とするより特別な機会だと思って出かけたわけです。(ちなみにS席は3万4千円也)
元々バレエのテープ演奏はいくら録音の出来が良くても好きではなかったので、ダンサーとオケとのその場の緊張感や、たとえミスがあったとしても、全部ひっくるめて良い機会であったとは思います。
当日は2日間の初日でしたが、お客様は普段の公演で見かけるよりもカジュアルな服装の方が多かったですね…。


◆ 『春の祭典』
(ストラヴィンスキー作曲、ベジャール振付)

生贄: 首藤康之
二人のリーダー: 後藤晴雄、芝岡紀斗
二人の若い男: 大嶋正樹、古川和則、
生贄: 吉岡美佳
四人の若い娘: 佐野志織、高村順子、門西雅美、小出領子


恥ずかしながら、この作品全体を観るのは今回が初めて。上演作、3つの中でも作品としては一番気に入りました。上演時間はおよそ40分。

雪に閉ざされた大地の下で眠っていた若芽が、春の訪れを感じ取り、ヒョッコリと土の下から顔を出してくるように見えた導入部から、男性ダンサーの迫力の踊り、ベジャール独特のポーズやフォーメーションの面白さ、あれこれ考えなくてもズッシリ伝わってくる作品に込められた生命礼賛の思いの力強さ。
装飾的でなく、はちきれんばかりに詰まったストラヴィンスキーの力強い音楽とベジャールがバレエとして視覚化したことは、最高に幸せなコラボレーションだと思います。
私は、このテーマは古いとは思いません。
ベジャールの語る「肉体の深淵における男と女の結合、天と地の融合、春のように永遠に続く生と死の讃歌」というのは普遍的ですもの。

今回は特に東京バレエ団の皆さんが素晴らしかった。シカゴ・フィルの演奏で踊る機会などなかなかありえないという今回の企画ですが、最高のパフォーマンスを見せようというダンサー達の意気込みが、とても伝わってきました。
緊張感もありましたが皆さん頑張っていましたね。
男性群舞は迫力ありましたし、女性も巫女のようにしっとりした部分があってとても綺麗でした。

さて、ソリストに目を移しますと、まず、生贄役の首藤康之さんですが、今回改めて、独自の雰囲気を持った方だなと感じました。
何ていうのかなぁ…、生々しくないというのか、踊りにしても原始的で根源的な音楽とリズムの中に確かに混じってはいますが、彼だけなんだか清廉な世界の中の人という感じで、とにかく美しいのですね。
あまり重みも感じさせなくて...。悪い意味ではなく、現実的ではない不思議な感じ。神秘的で、透明感もありました。
で、こんな風に書くと、この力強い作品にあっていないのではと思いそうですが、見てみると雰囲気があってとても良いんですよ。
それに、「二人のリーダー」、「二人の若い男」を踊ったソリストの方達も、皆さんキレのある動きで素晴らしかったです。

女性の生贄を踊った、吉岡美佳さんですが、神々しさが感じられましたし、姿かたちも美しくて素敵でした。
はじめは月の女神のように静かに神秘的に、そして段々と輝きを増しながら、表情も含めて素晴らしかったです。

演奏は、静かな時のフルートや、大音量のリズミックなところは、表現も豊かですし、さすがに迫力があって、絶対に生演奏で良かったと思います。
ただ、私の席位置は舞台に近い1階だったので、音を聴くには不利だったかもしれません。


◆ 『火の鳥』
(ストラヴィンスキー作曲、ベジャール振付)

火の鳥: 木村和夫
フェニックス: 後藤晴雄
パルチザン: 佐野志織、井脇幸江、遠藤千春、
後藤和夫、芝岡紀斗、古川和則、窪田央、高野一起


これは、本当にオーケストラの力量が充分に発揮されていました。
極小音の導入から大盛り上がりのフィナーレまで素敵な音楽体験を味わえてとても幸福な気持ちになりました。
組曲版ということで短め、25分の作品でしたのでもっと聴いていたかったです。

さて、バレエですが、パルチザンの衣装が、中国の人民服に見えちょっと違和感。火の鳥の赤い衣装はとても映えますが…。
そして設定をロシア民話からベジャール独自の第二次世界大戦の革命の闘士達に変えて作られた作品ということで、こちらは少しテーマの時代背景が、現在ではしっくりこない感じもしました。でも大元に流れる、倒れても新たな生命が宿り復活するというテーマは誰もが共感する良い題材ですね。
出来れば、背景なども取り去ったシンプルな『新・火の鳥』をベジャールさんに作って戴きたい。音楽も傑作ですし…。

今回、「火の鳥」を演じたのは、木村和夫さん。体格やスタイルにも恵まれた方です。この日の踊りの印象は、悪いというわけではないのですが、物足りなかったです。
動きにユルさを感じました。大きさのある踊りをされていましたが、微妙に勢いや繋がりがスムーズでなかった気がします。
フェニックスを踊った後藤晴雄さんは、これ以外の3作品とも主要な役をこなし大活躍でした。
フェニックスは途中から登場しますが、彼が加わると鮮やかさが増したような気がしました。とても存在感がありましたね。

でも、とにかく終幕の湧き上がる音楽のすごさには純粋に感動しました!!


◆ 『ボレロ』
(ラヴェル作曲、ベジャール振付)

*シルヴィ・ギエム

飯田宗孝、森田雅順、木村和夫、後藤晴雄


ラヴェル『ボレロ』の音楽はシンプルでいつ聴いても新鮮な感動を覚えます。多くの振付家も音楽に刺激を受けて数々の作品を生み出していますね。
このベジャール振付『ボレロ』は約40年以上も前の1960年が初演ということですが、未だにその新鮮さが色褪せることなく、多くの観客に上演のたび喜びを与え続けています。
「ボレロ」はひたすら壮大なクレッシェンドが曲の最後まで続きます。最初の極小音から最後の最強音まで、楽器の組み合わせにより、どんどん鮮やかになっていきますね。様々な楽器のソロも入れ替わっていくので、普段のコンサートでもオーケストラを見るのが楽しい作品です。

今回、円卓に上がるのは、スーパー・バレリーナのシルヴィ・ギエム
彼女の「メロディ」を見るのは今回2度目です。
私の席からは、舞台の上のさらに高い位置で彼女が踊りますので、ちょっと下から見上げる感じ。
円卓も底の部分しか見えないので、一度丸く見える位置からでも鑑賞したいところ。
だだ、赤い円卓を照らした照明の反射でギエムが赤く輝くのがとても綺麗に見えました。

曲が始まると真っ暗の中、動き出す片方の手だけ照明が当てられ、次は両手、さらに上半身…というように動きも照明も段々と増していくしくみ。
ギエムの動きは本当に美しくて腕一つにしても研ぎ澄まされた見事さがあります。
舞台上は、円卓の上に舞い降りた“美の女神”を敬う「リズム」達といった感じ、或いは、赤い円卓を「太陽」と見立てて、“太陽神”か“天照大神”と想像して楽しんだり…。
彼女の「メロディ」は凛とした清々しさや、動じない強さ、スピリチュアルな側面も印象深く感じましたね。

実は中盤あたりで、ソロ楽器が音程を見事にはずしてしまい(単純なメロディなのでとても目立ってしまった)それでもギエムは何事も無かったかのように、後半に向け素晴らしい踊りを見せてくれました。
終盤の大音響の中で手を前方に勢い良く伸ばすところなど感動モノでした。
ただ、前髪が今は長いので、動くたびに髪の毛がやたら顔に張り付いて、そのたび払い除けるしぐさが、見ていてちょっと邪魔そうだなと感じてしまいましたが…。



【最後に】

全体的に東京バレエ団の頑張りが印象的でした。
『春の祭典』はとても面白かったですし、『火の鳥』の感動的な演奏と『ボレロ』のギエムの踊り、どれもその場に立ち会えた幸福感があります。
演奏にミスはあっても、たまたま珍しくそういう日に当たっちゃったのかなと思うくらい。記憶には永く残るでしょうけれども。ナマ演奏で見る機会があったら、また是非行きたいですね。(シカゴ・フィルでなくてもいいです)

最後は観客のほぼ全員がスタンディングで拍手を送っていました。
ギエムは円卓を降りて前方に出てきてカーテンコール。
バレンボイム&シカゴ・フィルのメンバーも舞台に上がり挨拶をしていましたが、表情が晴れやかでなかったような…。
ギエムと東京バレエ団の方たちは踊り終えた充実感が顔に表れていましたね。
私はこの公演とても楽しみました。



◆尚、この文章は、シカゴ交響楽団のファンサイト 【 hi 】 を運営されているmoribin様 こちらのページ にも掲載されております。
私以外の方の御感想もお読み戴けますので、宜しければどうぞ。
クラシック音楽以外にも、moribin様による興味深いページが沢山あります。