きまぐれがき
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人のザッピングにはイライラさせられるけれど、私だってリモコン を持てばついカシャカシャしてしまうのだ。 そのザッピング中「経営者の資質がどうとか...」に釘付けとなり、 やっと手にしていたリモコンを手離す。
「経営者資質」が認められなければ出世はないと、通信簿を渡さ れている社員が映し出されているのは、かつて私の職場だった 某電機メーカーではないか。 番組は地元のテレビ局での「ガイアの夜明け」で、キー局では 4月末に放映されたものらしい。
私が社員だった頃は、配属された部署が秘書課だったからなのか、 和気あいあいとした家庭的な職場で、生き馬の目を抜くなんて 空気は何処にも誰にも感じられず、長閑そのものだったように思う けれど、時代が変れば企業も社員も生き残りをかけて必死なのだ。
私は東京支社(現在は組織が変っていると思う)だったのだが、 本社は大阪なので本社の秘書課とは役員たちのスケジュールに 伴い頻繁に電話連絡が行われていた。 その電話の声を訊いただけで、姿を見たことがないにもかかわらず 猛烈に憧れたのが、○○専務の秘書をされていらしたずっと先輩の Nさんという女性だった。
「○○専務室のNでございます」と、少々大阪弁のアクセントが 入ったなめらかな言葉だけれど、声質が澄んでいる分どこか冷たく も感じられて近寄りがたい女性のように思えるところが、なんだか 知り合いの修道女によく似ていて、逆に親近感がわいたのかもしれ ない。 秘書としての能力も完璧だと上司の評価が高かったこともあり、 そんなNさんに実際に会ってみたいという思いがつのって来たちょ うどその頃、本社へ出張することになったので、この時とばかりに 専務室へ訪ねて行った。
ひっつめにした髪をシニヨンにまとめて、白いブラウスの襟を立て モノトーンのタイトスカートはやや膝上、ヒールの高さは9センチ。 (なんだか世間でイメージする秘書そのまんまのようですな) などと、電話での声から想像が勝手にどんどん膨らんでいる私の目 の前に、聞き覚えのある声で「Nです」と現れた女性。 とても小柄でくるくる〜とした目がなんとも愛くるしく、私よりもぐんと 年下に見えて、ピンクハウスのお洋服にクマのぬいぐるみが似合って しまいそうなムードに、私はガシャンとしゃがみ込みそうになったの だった。
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