きまぐれがき
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2005年02月25日(金) 謎のさなえちゃん

久しぶりの発熱40度でダウン。
昨夜あたりからやっと37度までに下がってきてはいるが、まだだるい。
フラフラする。

何日も前に、桃が食べたくてしかたがない時があったなぁ。
あの時、すでに熱が出ていたのだと、はっ!と気がついた。

子供の頃、熱が出て食欲が失せても、桃だけは食べることができた。
時期的に桃がなければ、缶詰の白桃でもよかった。
むしろ缶詰の桃のほうが、柔らかくて甘くて嬉しかったりしたのだ。

さなえちゃんが、缶詰の白桃を入れたガラスの器を持って、寝ている私
の枕元に来る。
缶詰の桃は半分に切った状態で、甘いシロップに浸してあってツルンと
したお尻みたい。
それをさなえちゃんはフォークで一口大に切っては、寝たままの私の口
に入れてくれるのだが、「いいと言うまで飲み込んではダメ」だと言って、
上顎と舌で押しつぶして飲み込もうとする私の口元を、ずっと見張って
いるのだった。

さなえちゃんのことが親よりも怖かった私は、口の中でとっくにとろけ
てしまっている桃を「いい」というまで無理にかみ続けていた。
「よくかんで偉い」とほめてくれるのを待って「明日も学校、休みたい」と
訴えると、さなえちゃんはとびっきり優しい声で「休んでいいよ、学校へ
行くのは来週からでいい」なんて言ったりするので、私は熱が下がった後
も平気で何日も学校を休んで、家で遊んでいたのだ。

さなえちゃんを知らない人間は、○○家のモグリだといわれるほど、その
存在は親戚中にも、兄や私が通う学校にも知れ渡っていたので、いったい
私とはどのような関係の人なのか訊いたことなどなかったけれど、多分ず
っと家にいる人なのだと思い込んでいたのだと思う。

ところが別れの時が、不意にやって来た。
小学校の5年生だった1月のある日、学校から帰って家のベルを押すと、だ
いたい何時もはさなえちゃんが、お風呂場で履くビニールの靴を履いたま
ま(お風呂掃除をした後は、ずっとこのビニール靴で家中を走り回っている
ので有名だった)ドタドタと廊下を走って来る音がして、ドアを開けてくれ
るのに、その日からはどこにもさなえちゃんの姿はなかった。

さなえちゃんはよその家に行ったと教えてくれたのは、多分泣き止まない
私を見かねた兄だったと思う。家族は知っているのに私だけが知らない、
それにも傷ついて私はずっと拗ねていた。


あれからどれだけの時が経ったのだろう。
数年前に祖母が亡くなった時、親戚や縁者でごった返している座敷で、
さなえちゃんを見つけた。
兄が「この人誰だかわかる?」と、私を指差しながらさなえちゃんに訊ね
た。
さなえちゃんは慎重に考えている様子だったが「わからない」と答えたの
で、またもや私を傷つけるのかぁ〜と悲観しそうになったところに、兄が
「○○だよ(←私の名前ね)」と言ってくれた。

するとさなえちゃんは「えぇーーっ!!あの真っ黒で、ゴボウみたいだっ
たのがっ!?」と叫んだのだ!
この意外な言葉(>_<)

それからは二人で別室に閉じこもって、桃の話をしては笑いころげたり、
泣いたりして、お互い人生が過ぎていったねなんて、感慨に耽ったのだ
った。えっ?私、さなえちゃんよりふた周り近く下のはず。。



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