きまぐれがき
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久しぶりの発熱40度でダウン。 昨夜あたりからやっと37度までに下がってきてはいるが、まだだるい。 フラフラする。
何日も前に、桃が食べたくてしかたがない時があったなぁ。 あの時、すでに熱が出ていたのだと、はっ!と気がついた。
子供の頃、熱が出て食欲が失せても、桃だけは食べることができた。 時期的に桃がなければ、缶詰の白桃でもよかった。 むしろ缶詰の桃のほうが、柔らかくて甘くて嬉しかったりしたのだ。
さなえちゃんが、缶詰の白桃を入れたガラスの器を持って、寝ている私 の枕元に来る。 缶詰の桃は半分に切った状態で、甘いシロップに浸してあってツルンと したお尻みたい。 それをさなえちゃんはフォークで一口大に切っては、寝たままの私の口 に入れてくれるのだが、「いいと言うまで飲み込んではダメ」だと言って、 上顎と舌で押しつぶして飲み込もうとする私の口元を、ずっと見張って いるのだった。
さなえちゃんのことが親よりも怖かった私は、口の中でとっくにとろけ てしまっている桃を「いい」というまで無理にかみ続けていた。 「よくかんで偉い」とほめてくれるのを待って「明日も学校、休みたい」と 訴えると、さなえちゃんはとびっきり優しい声で「休んでいいよ、学校へ 行くのは来週からでいい」なんて言ったりするので、私は熱が下がった後 も平気で何日も学校を休んで、家で遊んでいたのだ。
さなえちゃんを知らない人間は、○○家のモグリだといわれるほど、その 存在は親戚中にも、兄や私が通う学校にも知れ渡っていたので、いったい 私とはどのような関係の人なのか訊いたことなどなかったけれど、多分ず っと家にいる人なのだと思い込んでいたのだと思う。
ところが別れの時が、不意にやって来た。 小学校の5年生だった1月のある日、学校から帰って家のベルを押すと、だ いたい何時もはさなえちゃんが、お風呂場で履くビニールの靴を履いたま ま(お風呂掃除をした後は、ずっとこのビニール靴で家中を走り回っている ので有名だった)ドタドタと廊下を走って来る音がして、ドアを開けてくれ るのに、その日からはどこにもさなえちゃんの姿はなかった。
さなえちゃんはよその家に行ったと教えてくれたのは、多分泣き止まない 私を見かねた兄だったと思う。家族は知っているのに私だけが知らない、 それにも傷ついて私はずっと拗ねていた。
あれからどれだけの時が経ったのだろう。 数年前に祖母が亡くなった時、親戚や縁者でごった返している座敷で、 さなえちゃんを見つけた。 兄が「この人誰だかわかる?」と、私を指差しながらさなえちゃんに訊ね た。 さなえちゃんは慎重に考えている様子だったが「わからない」と答えたの で、またもや私を傷つけるのかぁ〜と悲観しそうになったところに、兄が 「○○だよ(←私の名前ね)」と言ってくれた。
するとさなえちゃんは「えぇーーっ!!あの真っ黒で、ゴボウみたいだっ たのがっ!?」と叫んだのだ! この意外な言葉(>_<)
それからは二人で別室に閉じこもって、桃の話をしては笑いころげたり、 泣いたりして、お互い人生が過ぎていったねなんて、感慨に耽ったのだ った。えっ?私、さなえちゃんよりふた周り近く下のはず。。
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