きまぐれがき
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勝手知ったるKちゃんの家だ、玄関のドアを開けて中に入りホール の敷物に足を乗せようとしたその瞬間、「脱いで!!」 とKちゃんは叫んだ! 「何をっ!?」と私も叫ぶ。 「靴!靴!」 「なんで!?」
Kちゃんちは、ロシア人がかつて故国で住んでいた時と同じような 家を建てて住んでいたのを、親の代の時に買って、住み始めたとき から靴のままの生活なのだった。
「床暖房にしたからね」 あ、それで靴を脱げと。 見れば床の材質が新しい。 床暖房をきっかけに日本の生活様式へと戻すことにしたのだとか。
玄関ドアを開けると、段差のないホールがそのまま廊下につづいて いるだけじゃない。 壁際に2脚並んで置かれたチェーザレ・ボルジアが座っていたような 椅子の足あたりから線を引っ張ってきたとして、このへんを目安に靴 を脱ぐことにすればよいではないか、どうしてK家は靴のままの生活 をつづけていたのか?
と、これは今になって思うことで、子供の頃はこの家がたままらなく 好きだった。 庭で遊んで、シュー・スクレイパーでさっとこすれば靴のまま部屋に 駆け込んでも誰からも怒られないなんて、家もあんなふうにしてよと よく母に訴えたものだ。「あんな外みたいな家、いやよ」と拒否された けど。 Kママは父の妹。母はK家がセントバーナードを平気で家の中で飼っ ていることにも呆れていた。
このセントバーナードは来客の気配を察すると、自分の居場所と勝手 に心得てしまった二階の廊下から、よだれを流しながらのっしのっしと 階下に下りてきて初対面だろうが人の身体にすり寄るので、あの家 に行くのはちょっとな。。、とためらう人間続出だったらしい。
この家に住んでいたロシア人はビルカウスキーという名前だとばかり 思っていた。 紹介していただいた時は子供だったけれど「ビール」「買う」「好き」を 頭の中で連呼してビルカウスキーと覚えたはずだったのに、Kちゃん はヴロンスキーだったと言う。はっ!?それってアンナ・カレーニナじゃ ないか。
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