▼結局、昨日の日記に書いた商品は本棚を除いて全て購入。照明器具やら設置料金やらを合計したら、ボーナスすっ飛んだ。ボーナスしっかりもらっちゃった。 ▼犬を飼っている夢を見た。中型犬の雑種、名前はコロ。小さい僕はコロの背にまたがったり、ゴムボールをなげて遊んだり。コロはわんぱくで、庭先に干してあった布団をずたずたに噛んだり引っ掻いたり。怒られ、しゅんと身をすくめるコロ。 ▼記憶の奥底に隠れては、唐突に姿を見せる記憶の一つにコロがいる。昔、確かに家では犬を飼っていた。大阪にいた当時のことだから、僕が三歳になる前のこと。コロがいつ家に来たかは覚えていない。もしかすると、僕が生まれる以前から家族の一員だったのかもしれない。そんなコロの記憶が曖昧なのは、年齢のせいもあるのだろうけど、コロの話題が我が家でのタブーでもあったからだと思う。両親はともに東京出身だったが、仕事の都合で大阪に赴任し、そこで僕と姉は生まれた。保育園の入園を控え、ことあるごとに真黄色の制服とカバンに着替えてはしゃいでいた春先に、再び関東への赴任が決まる。僕は入園式にはいかず、いつもの遊び友達が制服姿で帰ってくるのを眺めていた。悲しいというより、わけがわからなかった。それからは一人で遊ぶことが多くなり、唯一の遊び相手はコロになった。一ヶ月もしないうちに、引越しの日がやってきた。転勤に際して両親は家を購入したが、完成までは半年以上がかかり、その間は借家住まい。先に出発したトラックを追うように、家族四人とコロを乗せた車は家を後にする。ちょっとした旅行気分の僕ははしゃぎ、引越しというのが何か特別なことのように喜んだ。途中、車は大きな建物の前で止まった。不確かだけど覚えているのは灰色の壁。家族みんなで建物の中に入ると、そこにはいっぱいの犬や猫がいた。「コロにさよならを言おうね」知らないおじさんと話す父の横で、母がそう言った。僕は無我夢中で暴れ、姉はただ泣いていた。微かに理解できたのは、次の家では犬を飼う事は出来ないということ。コロを預けた建物に向かって車の中からさよならと、姉と二人で何度も手を振った。それから後の事はあまり覚えていない。 ▼借家から新しい家へ。二度目の引越しを経て、僕は入園式を経験しないまま幼稚園に入った。コロを置いてきた場所がどこだったのかをおぼろげにわかるようになったのは、小学校に入ってからのことだ。社会科の授業で知った保健所という場所。コロと別れた場所が本当に保健所だったのかは、両親に尋ねた事は一度も無い。ただ、コロの写った写真を見る時、決まって家族の間に流れる妙な空気は、それを肯定しているのだと思う。コロの事はなるべく思い出さないようにしながら暮らしているうちに、忘れることが出来た。忘れたままの方が楽だったと今も思う。 ▼自分の、他人に執着しない生き方も、もしもの為の事前策なだけなのかも知れない。深く関わらなければ、割り切る事はできるし。そりゃ、今浮かべてる苦笑いが、それはちょっと違う、ってことなのはわかる。わかるんだけど、どうしようもない。深く関わってなお、ドライに割り切れるほど大人にはなれない。斜に構えてて、冷たく思われても、こんなこといくつも経験するよりは一線を引いて生きた方が何倍も楽。苦と楽なら、僕は迷わず楽を取る。
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