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■ 叔母のこと
オーロラツアーの会社から
パンフレットが届かない。
なんか、不安だ。
郵便物、パクられてないだろうか。
安心できる、同居人が欲しいよ、マジで。
そうなると
男なのか女なのか。
恋人なのか、友人なのか。
うーーーん。
やっぱ、結婚って大事なのかなぁ。
* * * * * * * * * * * * * * *
あたしの、叔母は
日航のスチュワーデスだった。
年いってからは
ニューヨーク勤務もしている。
社内勤務に移ってからも、エリートコースまっしぐらで。
死んだじいちゃんとばあちゃんは、それが自慢で
天井に近いところに飾ってある
ひいおじいちゃんの写真の横に
叔母の制服姿の写真を高々と掲げていた。
あたしにとっても、自慢だった。
小さい頃、美人の叔母と手をつないで歩く時
わざと甘えたりして
道往く人に、親子に見られようとしたりした。
生涯独身だったが、結婚の話もあった。
今は大学教授。
昔は、有名なマラソンランナーのあの人。
だけど、ただマラソンをしているだけの
その人との結婚にじいちゃんは反対したらしい。
それで、結婚がダメになったと聞かされた。
その後、恋愛の話は一切聞いていない。
それからの叔母は、仕事人で。
生活も老後もなんの心配もなかったはず。
東京港区に庭付きのマンションを買っていたし
貯金もあったと思う。
なにより、高額の年金が入るはずだから
普通の人より、贅沢な老後は間違いなかった。
だけど、年を取ってから病んだ。
心を病んだ。
不動産やに、価値のない物件を売りつけられてから
老後の計画に狂いが生じたのかもしれない。
22歳も離れている、あたしが買った土地と家を
真珠や宝石を
うらやむように、値段を聞きたがった。
おかしいな。
と思っていたが、あたしは妊娠中で。
母が叔母のところに通ったりして
面倒をみていたが、あたしは知らなかった。
心が壊れていたんだろう。
そんな叔母を母にまかせてしまった。
こともあろうに、母に。
母が行くくらいなら、あたしがいくべきだった。
あたしなら、
まだ叔母の苦しみの中に入っていけたかもしれない。
あの母が毎週、何ヶ月も通っていたんだから
もう、見た目で分かるほど
壊れていたんだろう、と今になって思う。
叔母は死んだ。
その前から、「死にたい」を繰り返していて
いい加減、あたしの母もサジを投げる寸前だった。
どうやって死んだかは知らない。
喉に、吐瀉物を詰まらせて。
と聞いている。
が、何度聞いても
詳しい話を避けようとする。
たぶん、嘘だろう。
自殺未遂の繰り返しのはずが
成功したんだろう。
叔母はあたしが愛する人の中のひとりだった。
何に悩んで
どうやって死んだかも
もう知る由もない。
母は死んだらあかん、を電話で繰り返していた。
怒鳴ったり
説き伏せるように言ったり
とにかく、死ぬなを繰り返していた。
そうじゃないよ。
話す毎に
母と自分が違いすぎると感じて
絶望に陥っていったのが、今ならわかる。
結婚をして子どもも2人育てて
その子どもが近所に家を建て、孫が出来ると。
叔母からみたら、
母はしあわせな他人の1人にみえたんだろう。
そんな人に、死んだらあかん、とだけ言われても・・
聞く耳がないはず。
あたしは、叔母が
本当に死にたかったのか、
それだけを知りたい。
たまに思い出す。
あたしが、19の時、従姉妹と叔母とで行った京都旅行。
高級店で、本物の懐石料理を食べさせてくれた。
京都の寺や歴史にも詳しくて
美人で、おしゃれ。
あたし、こんな女になりたい。
と憧れた。
中学の時には
養子にして欲しい、と切に願った。
大人の話をもっとしたかった。
あたし、やっと大人になれたのに。
それに比べて
人の気持ちが分からない母。
空気が読めない母。
常識をちょっと自分の中で変えてる母。
そんな母が、やってしまった。
あたし達にとっては
叔母から話を聞かされるだけで
会ったこともない、叔母の昔の恋人。
たまに、テレビに出ていて
あぁ、この人だ、と。
ただ、それだけの人。
そのマラソンランナーに電話。
T大学代表電話にかけて
教授を出してくれと。
叔母が死んだと伝えて、葬式に花でも贈ってやって欲しいと。
30年も会ってない女の親戚から
ずうずうしい催促。
もう、結婚して家庭もあるだろうに
むこうにしたら、迷惑だっただろう。
母が電話をした日に、それを聞いて
あたしは、母に説教した。
それは、おかしい。と。
よく、電話口に
今は教授のその人を呼び出せたな。と感心するが
あまりにも厚かましい。
たかり同然。
あたしに説教された母は、逆ギレしてたけど、
本当に恥ずかしくてしょうがなかった。
葬式をした、故郷である
四国の田舎町まで
その人は足を運んでくれた。
わざわざ新幹線と快速を乗り継いで。
花ではなく、本人が。
あぁ。
叔母は愛されていたんだろう。
教授は家庭を大事にしている人だと思う。
そういう愛ではなくて。
別れた後も
いつまでも、心の片隅にある愛。
1人寂しく死んでいった
30年も前の恋人に
最期の別れをしに、きてくれた。
愛。
愛、としか言いようがない。
母によくやった、と言いたい。
フツーの人では、出来ないことを
この人はしでかしてくれた。
そして、ありがとうと言いたい。
マラソンランナーだったあの人に。
叔母は、たぶん貴方のことが
生涯、好きでした。
男の話は、貴方だけ。
少女のように、目を輝かせながら
まだまだ子どものあたしに
貴方の事を、聞かせてくれました。
最期に会えて、よかったね。
りっちゃん。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
でも、誰かの心の片隅に残るような恋をしたいね。
ストーカーはごめんやけど。
by なぎさ
2005年01月09日(日)
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