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「31」……ある推理の帰結
サトシの音楽教室の日のこと。 エレベーターに、同じクラスの男の子とそのお母さんが 乗り合わせてきた。 「こんにちわぁ」と親同士挨拶を交わすが、 まだ子供たち同士は照れて挨拶ができない。 後から乗り込んできたその男の子は、 口元に照れ笑いを浮かべながら こちらにくるりと背を向けてしまった。 あらあら…と微笑ましく見やったその背中に、 思わずはっとした。 野球のユニフォームを模しているらしい 襟が黄色と黒に縁どられたTシャツの背中に、 「31」という番号がプリントしてあったのだ。 (阪神の31って、今誰だっけ?私たちの世代なら……) と思いながらもう一度よく見ると、 31の上に「KAKEFU」というローマ字が見えた。 「やっぱり掛布なのか…」 と納得しかけて、え、そうかぁ?と首をひねる。 掛布が現役引退してからいったい何年経つ? 「NAGASHIMA 3」ならともかく、 今でも子供向けに製造しているとも思えない。 11階でエレベーターの扉が開き、 子供たちが教室に向かって駆け出すのを見送りながら、 ぼんやり考えている。 別にたいしたことではないんだけど(^^;) 教室に入り、二人の男の子は最近ほぼ定位置になっている それぞれのエレクトーンの椅子に早速よじ登った。 二人の定位置は通路を挟んで背中合わせなので、 再び「KAKEFU 31」のバックプリントがこちらを向く。 ちょっと失礼かな、と思いながら、しげしげと観察すると、 けっこう背番号の黒が色あせて白っぽく、 生地の表面も毛羽立っている感じである。 なるほど! あれはパパのお下がりなんだ! 熱狂的なトラキチのパパが少年時代愛用していた 憧れの掛布ユニフォームシャツ、 小さくなって着られなくなっても捨てるにしのびず、 ずっと大切にとっておいたに違いない。 そして、時代はめぐり、息子があの頃のパパのサイズに成長すると、 パパは押し入れの奥から1枚のTシャツを引っ張り出してくる。 「いいか、大切に着るんだぞ」 パパの宝物を譲り受ける、というのは 息子にとってきっとすごく誇らしいことなんだろうなぁ。 たとえ「掛布ってあの“どんでんねん”のはげおじさん?(^^;)」 と思ったとしても、やっぱり嬉しかったんだろうなぁ。 先週付き添ってきたその子の若いパパの顔を 思い浮かべながら、 なんだか勝手に胸を温かくしてしまった。
2001年06月16日(土)
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