田辺聖子 著 角川文庫 昭和62年1月10日 初版 平成16年1月25日 15版発行
田辺聖子の短編集。収録は表題の作品の他7編。 ・お茶が熱くてのめません 主人公が売れっ子脚本家。著者本人を重ねやすい作品だけれども、別れた男と再会した時の気持ちの動きが絶妙。 ・うすうす知っていた 2歳年下の妹の婚約者の訪問を待ち受ける独身の姉の感情の動き。 女はどんなにバカなことをしていても、どこか自分を第3者として客観しているものです。自意識が強いのよ。 ・恋の棺 10以上も年下の恋人をじらす女の恋に熱くて醒めた感情。見た目はロマンチックで洒落た話だけれど、とことんクール。 ・それだけのこと 夫の会社関係者の前では仲の良い理想的夫婦を演じる女のプラトニックな愛。・・・そんなものかもねえ、と説得力あり。でも、やっぱり一線を越えないところがこういう女よ^^; ・荷造りはもうすませて 10年連れ添った夫に愛人ができ子どもができたことを切欠に捨てられる女の話。 つくづく・・・この短編集に出てくる男はアホばっかり^^; でも、確かにいそうな男たちでもある。女が都合よく扱われすぎのようにも思うが。 ・いけどられて 前妻との間に子どもが2人いる男と再婚した女の話。 夫という他人との生活をよく描写している話。妻なのに、夫には自分の入っていけない父親という生活がある。 ・ジョゼと虎と魚たち 身体障害者の主人公、ジョゼと恋人の恒夫の危うい関係。関西弁が小気味いい話だが、停滞した幸福を「死」と同義に見るジョゼの諦観した孤独が哀しい。 ・男たちはマフィンが嫌い バカンスを仕事で来れなくなった愛人を待ってひとり別荘ですごす女の気持ちの揺れ。 そこまで分かっていても割り切るには相当の勇気が必要。女は男の底なんて見て見ぬふりをしているものだけれど、だからといって知らないわけではないんだよ。 ・雪の降るまで 一見、普通のさえない中年独身女。実は情交が趣味で色好み。能アル鷹ハ爪ヲカクス。常に刹那的な情交をして、後を残さず未来を見ない女の魅力と冴えはひどく孤独。
いろいろなパターンの女の心理を描いた短編集だけれども、共通しているのはどこか達観して冷えた女の視線。それは強さといえるかもしれないけれども孤独でもあるね。 この作家さんはアホな男を本当に可愛らしく思っているんだろうなあ。
実は恋愛小説は苦手なので田辺聖子は古典ものの他はあまり読んでいない。エッセイは好きな方なのだが・・・。
|