第二話 〜天使が来た日〜 - 2003年07月05日(土) それはまだ、このカフェに数えるまでもないほどの人しか来ない日が続く 夏も始まりかけた季節。 その時以来、もう来る事がない住人がいる。 ちらほらとした噂を聞いたという、関西から研修で来ていた営業マンの男の子だ。 この知らない土地で過ごす一週間の間、彼は住人と化していた。 人なつっこい性格らしく、来て早々私の名前を聞くなり ‘ちゃん’付けで呼ぶほどで、じゃれる様に話しかけてきた。 そして、いつ仕事をしているのかと思うほど長い時間ここで過ごし さらには研修で各地から集まった仲間を毎日引き連れてくる。 いつの間にか数日後には席がスーツを着た人達で にぎわっているほどだった。 なんだかすっかりペースに巻かれてはいたものの、 誰もいない毎日の時間に、少し落ち込み気味だった私は 恋にも似た気持ちで、彼が来るのを待ちわびる様になっていた。 おちゃらけばかりではあったが、 真面目な話も出てくる様になると 「本当は絵を描いたり、それに関わる仕事がしたい・・・」 などと言い出したり、 飼い始めた犬が留守中に死んでしまい、泣いてしまった事を 夜中にメールでよこしたりなどもした。 お調子者の裏側を垣間見せるもう一つの顔。 そして翌日には何でもない顔をしてやって来るのだった。 そんな日々が続き、一週間後・・・ TOPの成績で研修を終わらせ、 そして、笑いながら 「また来るよ」と言い残すと、 ここを去っていった。 なんだったのだろう。 また静かな時間が戻ってくる中で、その幾日間を思い出す。 私への励ましや、切ない話、笑顔、色んな想いをたくさん置いていった彼。 しばらくは、夏の暑い日差しが切なかったのを覚えている。 ずいぶんと経った頃、ほんの短いメールがきた。 やはり、なんらその頃と変わらない感じで。 それからも本当に忘れた頃を見計らって 時々メールは届く。 けれど、こちらからいくらメールをしても返事はくる事はなかった。 私は思う。 あれは天使だったのではないかと・・・ 元気の無かった私へ神様からのプレゼント。 だとしたら、結構素敵な思い出ではないだろうか・・・ -
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