第十四話 〜お医者さんっぽくない、お医者さん〜 - 2003年10月21日(火) 「あら、先生じゃない?」 と、病院に勤める他の住人が カウンターにひょっこり来た男性に声を掛けた。 ほんの少し年上のようだが、 少年のような純朴さを感じるその人は どうやらお医者さんみたいだ。 せっかくのお休みに、こうしてゆっくり過ごそうと訪れた場所で あっという間に素性がバレてしまい、少々バツが悪そうな感じでいる。 私はというと 「あらそう、先生なの。じゃぁセンセって呼ぼうかな?」 などと、はなからそう呼ぶつもりも無い調子でからかった。 けれど、本当にどうも ‘お医者さん’ というイメージではない。 話を聞いてみると面白い返事が返ってきた。 高校生まで地方のまるっきり野球少年だった彼は、勉強もそっちのけで 毎日グランドで球と追いかけっこをしていた。 ところが、3年生の時だ。 じん帯を損傷し、野球が出来ない身体になってしまったという。 その時、病院で過ごす内 今まで知らなかった、考えもしなかった世界に不思議と惹かれていった・・・ それが医者を目指した最初のキッカケだそうだ。 それからは高校の先生、友達、皆に 「お前が医者になんかなれる訳ないだろう」 そう言われ、悔しい思いで猛勉強を始め、それから2年後。 彼は見事、医大に合格した。 もちろん、誰もが驚いただろうと想像がついた。 だから彼は、イメージする医者とは異なっているのも当然で エリートとは違った、熱い想いを常に持っていたのだった。 そんな彼がある日、頭を抱え訪れた。 前途ある若者がガンに侵され 主治医である自分をとても頼りにしてきてくれているという。 そこまではいい。 が、彼はそれ以上・・・心の中にまで入ろうとしてしまった。 そう、心も癒してあげたいと思ってしまったのだ。 「一体どうしたらいいのだろう」 呟く彼の隣に、ガンを克服した住人と 医療に関わる仕事をしている住人が偶然座った。 でも、その住人らは彼に何の慰めもしなかった。 「今あなたは、医師として全力で治療をしてあげるだけでいい」 それだけ伝えた。 心を癒すなど、簡単には出来ない。 それがしたいなら、メンタルドクターになればいい、、、 と。 少し経ち、先生である彼も医師としての役割を果たしたらしく 患者さんは回復し、退院していったそうだ。 純朴すぎる事が、自分自身の首を絞める時もある。 確かに思う様にいかない世界もある。 でもそんな事実を知ったところで、私達にはどうにもできない。 悲しいけれど、それは彼がどうこれから そんな世界でがんばってくれるかに掛かっている。 ただ私は、そんなお医者さんが存在してくれる事を嬉しく思う。 そして自分が創れない世界は、出来る人に託してみようと思う。 「いつか心のケアを一緒にできる病院を創って欲しい」 こんな先生のやる病院なら、遠くでも是非行きたいのだから。 -
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