第二十三話 〜空気のような人〜 - 2004年06月06日(日) まったく、この人は何人違う女の子をここへ連れてきたのだろう。 七転八起、不屈の精神で次へと挑む事が出来るのは なかなか出来る事ではない。 ただし、その住人本人がどのくらいそのつもりで挑んでいるかは 定かではないけれど。 いや・・・ 全く不屈の精神ではないのだろう。 彼にとってはごく、自然なことなのだ。 初めて来た時も、可愛い女の子と一緒だった。 私とほとんど年は変わらないらしい。 そしてここで彼は話せば話すほど、あっと言う間にここの空気とも馴染んでいった。 「少しかっこよく言えば、広告デザイナーなんだ」 そう言うだけあって、小洒落たセンスも持っている。 そして翌週には、まるで昔からの住人のように このカウンターへと一人訪れたのだった。 この住人は、どこでも、だれとでも、どんな状況でも 同じ空気を吸う事が出来るらしい。 いわゆる、柔軟性に長けているのだ。 なので、何人女の子を連れてきても彼なら仕方ない、とでも言おうか それは、その住人が持つ才能に他ならないからだ。 それに、ちゃんと言っておくと 連れてくるのは、女の子だけではない。 男友達や、家族、知り合いまで、とにかく様々な人達と一緒に来る。 優しい奴なのだ。 お父さんが亡くなった今、お母さんや年の離れた弟と旅行へ行ったり 行事ごと、しっかり実家へ顔を出してはやる事をやっている。 どこかで美味しいもの、楽しいものがあればその度、周りの人への土産も忘れない。 だから、そんな彼を知った女の子が つい惹かれてしまうのも無理はない。 但し人とは面白いもので、才能たる素晴らしいものを持っていても 相反したものも存在しているということがある。 空気になれるという、素晴らしい才能。 その反面、誰かが所有化を望んだ場合 それは叶わない。 もちろん、元々人は所有化できないものだけれど。 けれど、人はいつのまにやら望んでしまうもの。 在るのに掴めない、そんな歯がゆさを女の子達は感じていることだろう。 そして、彼もそんな相対的なものを持つ自分に どうしていいのか分からないでいた。 いくつもの出来事や、人、様々なものを通り抜け人は成長する。 最近、彼は何か見つけたらしい。 今まで、本当に何をしたいのか分からないでいた。 けれど、こうして一生懸命勉強をしている姿を見ると 人はちゃんと何かを見つけていくものだと改めて希望を感じた。 きっとこれで、掴める空気になれるのかもしれない。 なんだか面白い。 ‘掴みどころのある空気のような人’ そういえば、一つ面白かった話がある。 彼がここに来た当初、こんな話をしていた。 「昔さぁ、黒い石の付いたブレスレットを フリーマーケットの隣でやってた人から貰ったんだけど それ付けた日の夜、すごい熱でてうなされてさ。 だから夜中に病院行ったんだけど、原因分からなくってね。 それから一週間寝込んじゃったんだよ。 で、どうしても理由が分からないから そのブレスレットかと思って、お寺に収めに行ったんだ。」 なんだか私はこの話が気になって仕方なかった。 もちろん不思議な話だからだけれども。 それからもうしばらくして、他の女性の住人と私で とあるイベントへ行く事になった。 そこへ丁度タイミング良く、この彼から連絡が入り合流することとなった。 そして、イベントが終わりにもなった頃 「ねぇ、私この人知ってるみたい」 と、彼女。 なんと、昔隣同士の仕事場におり顔見知りであったのだった。 その偶然にも驚いたが、さらにそれから数日が経ち またいつものように、この住家で他の住人に彼が例の話をし始めた時のこと。 「不思議なブレスレットがあってね、それを貰ったのが ここの住人さんだったっていうのが・・・」 「え?」 私は何の事?と、首を傾げた。 そう、その気になるブレスレットをあげた方の本人が あの時一緒にイベントに行った彼女だったのだ。 あげた人と、もらった人とが数年の後、またこうして出会う。 何か石に託された謎の物語がどこか、いくつかの過去にあったのかもしれない。 ちなみに、このお相手の住人は前話の彼女。 面白いような不思議な縁があるものです。 -
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