第二十七話 〜自然色の彼女〜 - 2005年01月24日(月) 「今日は何も聞かないで」 そう言って電話は切れた。 数分後に訪れた彼女は 目も合わさず遠くのイスに深々と腰かけると ほとんど聞こえない声で挨拶をした。 うつむきかげんでいたせいか 後姿からはひどく疲れている様に見える。 私はというと、さっきの電話で頼まれていた いつもの温かいスープを用意していた。 それからスープと、魔法の甘いお茶を静かに出す。 いつもと違うエッセンスを、私が勝手に加えたお茶だ。 『ほんの少しでもいいから気持ちが穏やかになりますように』 そんなエッセンス。 一体何があったのだろう。 ちょっと私よりお姉さんの彼女。 もう住人になって日は経つが、あんな顔を見た事はなかった。 派手じゃないのに、いつもなんだか目を引く 素敵な色合いの服を着ている。 ふんわりとした髪形もまた 彼女の雰囲気を柔らかいものにしていて魅力的だ。 訪れる度、素敵なお友達を連れてきてくれたり ウエディングコーディネートの仕事もしているので 打ち合わせがてら、そんな幸せなお客様を連れてきてくれたりもする。 みんなそんな活発で、わくわくさせてくれる彼女が好きなのが分かる。 カウンターに座る時は 一緒に仕事や夢の話に花が咲く。 ‘ナチュラルカラーカウンセリング’という仕事を始めたのも カウンターで何か自然や色、幸せに繋がるものはないかと互いに話をし その時、彼女が偶然その資格を取れるスクールを見つけたのだった。 自然界に存在する色でカラーチャートを作成し その人に似合う色や花を見つける。 併行してやっているウエディングの仕事にもピッタリなのだと言っていた。 心は誤魔化せないとばかりに教えてくれる花や色。 そんな話も色々したものだった。 結局どうしたのだか分からないまま、年を越してしまったが お正月、彼女から年賀状が届いた。 「あの日は私の転機だったのです。 そしてその時、あのスープを食べたかった。 ありがとう。」 そう書いてあった。 そして一月のとある日。 いつもの笑顔で彼女がやってきた。 のんびりとした平日のお日様を浴びて、お茶をしていると ぽつりぽつりと、一ヶ月前の話をし始めた。 聞けば、とても切ない出来事が起きていたようだった。 が、しかし身も心もボロボロだったその時 不思議な体験をしたと言う。 それは、どこかから聞こえてきた声。 『勇気を持って・・・ 自由でいいんだよ・・・』 信じられなかったけれど、事実 そんな悲しみの中から同じ位の力を貰えたのだと。 そして知らぬ間に、世界が変わっていたそうだ。 彼女は、その傷みの中に答えを見つけていた。 それは彼女自身が、正直に自分と向かい合っていた証拠なのだろう。 私たち色んな事を知る為に、様々な体験をするのだと改めて教えられた。 そう、 その壁を乗り越えたとき 私たちは真の優しさや愛を感じるのだ、と。 色は一つではない。 赤・青・黄が組み合わさり、数え切れないほどの色を創っている。 心もまた同じく たくさんの感情が入り混じり今の自分を創っているのだ。 「今年はもっと自然に触れてみるわ」 そういって帰ってゆく後姿は、以前よりも もっとほがらかで、ますます魅力的に見えた。 そんな彼女が創り出すカウンセリングを受けると ナチュラルカラーに秘められた何かを 覗くことが出来るかもしれない。 『自分色を探してみない? きっとあなただけの新しい色が見つかるから・・・』 そう私の耳に聞こえてきた気がした。 -
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