SS日記
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人気の無い通りを阿部隆也は足早に歩いた。 西日に照らされた道は、まだ少し明るい。
『公園で、待ってる』
聞いたのは、たった一言。 榛名が『公園に、来い』ではなく『公園で、待ってる』と言った。 ただ、それだけ。
でも、まるで釦をかけ違えた様な―些細にして、決定的な差異。
視線の先、小さな児童公園に榛名が居た。 声をかけようとして、躇う。 夕日を見据え、佇む横顔は何処か現実感がない。
考えを打ち消す様に阿部は軽く頭を振った。
―そんな
鼓動が、跳ねる。
―そんなこと、ある筈がない。
項の辺りが、締めつけられた様に痛む。
喘ぐかに息を吐き、阿部は榛名へと歩み寄った。 砂を踏み締める音に気付き、榛名がゆっくりとした仕草で振り向く。
「初めまして― 阿部隆也」
言って、榛 名 は 柔 か に 微 笑 っ た 。
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