犬を飼っている。
ミニチュアピンシャ種のナナスケは、とっても手のかかるコである。
晩ご飯をあげた後、なにやら口をニャンニャンさせているので、なにか拾い食いでもしたのかと、口を開けさせてみた。
すると、急にアタマをプルプル震わせて痙攣を始めた。
まさか。
脳裏に三年前の出来事が過ぎる。
“脳水腫”。
犬とは本来、脳から少しづつ水分が出ていて、ソレをオシッコと一緒に排出するための、“脳幹”と言う管が通っている。
その管が詰まると、脳に水が溜まっていき、脳を圧迫して身体の機能をまひさせる、いわゆる脳腫瘍のような病気が“脳水腫”である。
小型犬によくある病気だが、治らないと確実に死にいたる、大病である。
ヤツはそれにかかった。
体の右半分が完全に麻痺し、食事はモチロン無理、日に日にやせ衰えて行きながらただ、犬だけにツライとも言えずに僕の横で丸まっていた。
毎日病院に通った。
まだ一歳の成長期なので、治癒力を活性化させるステロイド剤投与が唯一の治療だった。
一ヶ月、ステロイドで効果が無ければ手術、眉間に穴を開けて水を摘出する大手術だ。
しかしこの手術での生存率は限りなくゼロ、しかも、生きている限りは自然に水が出るので根本的な完治には至らない。
投薬での生存率は40%。
最初の診断で、きっぱりと宣告された。
毎日二回、噛まずに飲み込めるチーズにクスリを隠して投薬を続けた。
二週間目、レントゲンでもまだ腫瘍が引いていない。
もうだめだと思った。
手術には保険なんてないから、40万かかる。
お金は問題では無かった。
僕が人生で一番辛い時期に導かれるように現れた家族である。
ただ、ナナスケは小型犬なので、ほとんど手術には耐えれない、むしろ死ぬ為に受ける手術になるがどうするか?と医者に言われた。
もう少し、もう少しと毎日クスリの入ったチーズを食べさせた。
一月がたった。
クスリ入りのチーズを食べ終えた後、おもむろに飛び跳ねながらお代わりをしてきた!!
レントゲンを見ると、腫瘍が消えていた。
ただ、小さい犬種だから、再発の可能性は凄く高いと釘を刺された。
また痙攣が始まったら夜中でも良いから連れてきなさいと言われた。
お医者の先生に、おおきにおおきにと言いながら、二人でオヤツを買いに行った。
―その時の記憶が蘇った。
腕にぐったりもたれて、プルプル痙攣している。
耳は情けなく垂れていた。
ヤ…、ヤバス。
時刻は12時だ。
診てくれるだろうか・・・。
いやいや、たたき起こしても診てもらわねば。
服を着替えていると、痙攣しながら舌が出ている。
舌を噛んだら大事だと、顎に指を突っ込むと、ペロンと小さな塊を吐き出した。
?
奥歯だ。
見ていると、何食わぬ顔で、トテトテと布団に向かっている。
すると何かい、抜けそうな歯を自分で弄ってて痛かっただけみたいな事かい!
いや、いきなり全然普通、むしろ散歩に行こうと言っている。
全身のチカラが抜けたトコロで、抜けた歯を匂ってみた。
衝撃的な臭さに、今度ミーティングの時にたつをに嗅がせようようと決めた。
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