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ま、いいけどね。
ロミオが去ったあと、持ち主がいなくなったグラスをボウッと見つめ (サイテー) 心のなかで吐き捨て外に出た。
・・・本気デ怒ルナヨ ナンバーツー・・・。
さっき街を眺めたときよりお酒は入ってるはずなのに、頭の芯がすっかり冷えていた。 終電はもうとっくに間に合わない。 タクシー・・・は時間柄、まだ捕まえられそうもないな。 終電を逃した酔っ払いがタクシーを求めて、一番徘徊する頃合だった。
せっかく高い酒、イイオトコと飲んだのになーーー。 酔えなかった。むしろ・・・チクショーーーー
帰るの面倒くさいなーーー。でも帰らなきゃ。 明日は午後イチから打ち合わせがある。 帰りたくねーーーー。 アア、石ニナリタイ・・・・・。
酔ってないと思ったけど酔っていたのだろうか。 普段なら絶対出来ないであろう『路上で座り込み』をして、膝頭のなかに顔をうずめた。 あったかい・・・動きたくないよぅ・・・笑。
「ねぇねぇ、綺麗なオネーさん」
棒読みなセリフが背中に投げつけられ、ハッとして振り返る。
「アンタっ まだいたのっっ?」 「ひどいなー。いいモン持ってんのに。んなこと言われたら、あげたくなくなっちゃうな」
ロミオは、その手のなかに白い小さな湯気のたつビニール袋をいとおしそうに抱えていた。 いい匂いがする。 中華な感じ。
「いらないデスカ?」 「いるっっ」 「じゃ、向こうで食べよ」
彼が指差したのは、すぐ近くにあったコンビニのベンチだった。 白く長いコートを着た後姿を中華な匂いにつられて、目にもごちそうと思いながらフラフラついていった。 食欲には勝てないのよ・・・そうなのよ・・・
「はい」 「・・・いただきます・・・」
両手に持ったフワッと広がる薄地の包装紙のなかに、ぷっくり太った肉まんがあった。 湯気がたっている。 たまらずカブリつくと、口のなかにジュワッと肉汁と具が広がり熱いモノが躰中に運ばれていった。 ロミオも食べている。美味しそうだというか、嬉しそうだ。
随分前からの飢えを満たすように夢中で食べ終わると、急にさっきまでのトゲトゲした毒がヌケてきた。
・・・なんだ腹が減ってたのかワタシ・・・
「飲んだあとは、コレなんだ」 満足そうにロミオが言った。子供みたいに可愛い笑顔をするよねキミは。
「飲まなくても、コレなんだけどね」 「・・・」 「なんかさ、一緒に喰って〆だよなって、やっぱり思ったんだよね。」 「・・・」 「それに、2回も声かけちゃってナンカ僕ウケるでしょ」 「・・・」 「お誕生日、おめでとー」 「は?」
急に冷静になり、ロミオを見つめた。
「あの、わたし、誕生日来月なんですけど・・・言ったんじゃないかと思うんだけど・・・」 「聞いたよ?」
タバコを吸いながら、ロミオは肩を震わせて笑った。何がそんなに可笑しいのかしら。なんだか調子が狂うわ。
「来月のその日におめでとうって言える機会があるかわからないし。でも誕生日なんだって知ったとき、なんか言いたかったのネ。 で、今、言わせてもらった。肉まんがケーキ」 「は・・・」
このオトコとは今夜が初対面なのよね。 なのに、なんで。 ずっと以前から知ってるような気がするんだろう。
って、こんなこと思うこと自体、わたし安っぽいのかしら。 ハマッちゃってるのかしら。 サビシイ女なのかしら(そうだけど)
「あったまった?」 と、ロミオが言った。 肉まんのことを指してるんだろうけど・・・わたしには、それ以上だった。 肉まんは好きよ。でも・・・
「ごめんね」とわたし。 「・・・」 「嫌な言い方したわ。ジェニーが面倒見のいい・・・優しいひとなのは、わたしも知ってる。長い付き合いだもの・・・ 知ってて言うの、サイテーよね。今夜はというか、最近ちょっとわたしダメ人間でね。ロミオがかっこいいからさ、ちょっと妬いちゃったかも。 ・・・肉まんとお祝いの言葉、嬉しかったよ、ありがとう。」
言うべきことは言えたわ。言えてよかった。 ほんとにこのまま、ここにいると尻に根が生えそうだった。 ほんとに、もっともっと好きになりそうだった。 それは、ほんとに困るのよ。 ほんとに ほんとに ほんとに。
「千夜さんもかっこいいよ。僕が女だったら惚れてたね」 「それは、どうもありがとう」 嬉しくないわ(笑) ていうか、ロミオ、そのセリフは いらないから(笑) ウソツキ。
「千夜さん」 とロミオは笑顔を消すと、真顔でわたしに言った。
「千夜さんさ、綺麗だしカワイイけど来月は誕生日を迎えるんだから今夜はもう寝たほうがいいよ」 「・・・は?」
わたしがバカなのかしら。 ロミオの言う意味が全くワカラナイ。 見た目イケてるけど、実際はババアなんだから、ビタミンとコラーゲンの減りに注意して睡眠を貪れてっことかしら(そこまで言ってない?) 会話の流れが噛みあってない気がするんだけど、気のせい? ジェネレーションギャップってやつ?(やけくそ)
「ああ・・・ごめん」 とロミオは笑顔になると、悪戯っぽい目でわたしに言った。
「もう寝たほうがいいよ、オネーサンって言ったの」 「ちょっとアンタっ!シツレーじゃないのっ」 「いいえ。 親愛なる想いをこめて・・・」 「・・・」 「心からそう思っているよ。・・・♪ねむれ良い子よーーー♪」
わざと調子っ外れにロミオが歌った。 彼の後ろに広がる星空も一緒にスィングしてくれているように、わたしには見えた・・・。 酔っ払うって、現実よりファンタジーなれてお得かも。
なんとなく笑い声をたてると、照れたように彼も微笑んだ。
それからタクシーを拾ってくれて、わたしはそれに乗り込んだ。 ロミオは窓越しに小さく微笑み『バイバイ』と手を振り、わたしもそれに応えた。 車が発進し、彼の姿は瞬く間に小さく・・・そして見えなくなった。
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