月鏡〜はじまりのこと8〜 - 2009年03月08日(日) わたしは ぺこりと頭を下げて のろのろと改札を抜けた。 さっきまで手の中にあった ふたり一緒の時間が逃げた。 引き止めてくれないだろうか ひとの恋愛は どんな風に始まるんだろう。 ドラマならここで 彼が突然 手を引いてくれたりするのに。 何も起こらない。 当たり前の現実。 靴の入った紙袋を 胸にぎゅうと抱えながら 階段を上った。 ふと 涙が零れそうになった。 その先に白いシューズがあった。 カレガワタシ二クレタシルシ なんの? なんのしるしだろう。 自分勝手な期待で そんなことを思おうとした。 見知らぬ街に彼を残して 電車は走り出した。 わたしの想いも 全部この街に残して 空っぽになってしまいたい。 できないくせに。 群青のそらに 満ちてゆく細い三日月が光っていた。 -
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