仕事中、ずっと彼の指を見てた。 右手にはしてなかった。 立ち位置的にあたしからは彼の右手しか見えなかったから。
右手に指輪はない。 少しホッとしたけど、 左手にあったら絶望的。
何度も見てたけど、 ちょうど角度的に見えなくて。
彼があたしのテーブルに延長確認来た時に、 真正面になったからあたしはまじまじと見てた。
指輪は、 ―――ない。
…あたし、何考えてるんだろう。
あたしが関与すべきことじゃない。
彼に彼女が出来ても、 あたしには関係のないこと。 …彼にとってはね。 あたしの心が勝手に挫けるだけ。
そういえば、 今日は元彼と今の彼女さんとの記念日かも。
元彼の家に泊まったとき、 見ちゃったんだ。 ペアリング。 内側には日付が彫ってあって、 確か、それは今日だった。 はっきり覚えてないけど、そんな気がする。
指輪って怖いな。
元彼とのペアリングを彼に返したのは、 いつのことだっけ。 どのタイミングだったっけ。
良かった。 忘れてる。
というか、当時のあたしの記憶は おかしくなりすぎて狂ってたから。 まともに思い出す事は出来ないだけ?
外した日の痛みもわからない。
彼と付き合って 「指輪が欲しい」ってはにかみながら言ったあの日は、 未だに忘れてないよ。
明日からまたバイト行くから、 きっとあたしはまた彼の手を見るんだろう。
黒か白か。 それがはっきりわかるまで。
黒の可能性が高い。
けど、泣いてるわけにはいかないんだ。
あたしは、 商品。 店内に居る間、 従業員に感情を抱いてはいけない。
それがわかってるから、 あたしは大丈夫、よね。
次にあたしが左手の薬指を託す相手は誰? それが最後の相手でいい。
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