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2004年10月14日(木) |
それにしても、熱燗が飲みたくなる(川上弘美『センセイの鞄』) |
川上弘美『センセイの鞄』読了。
こんな関係が、本当にあったらいいのにと、うらやましく思う。 しかしまた、本当にあったら、たいへんかもしれないとも思う。
人が、人として、なにか物理的なところを超えたところで、 通じ合っているという感覚。 通じ合うというより、感じ合うという方が近いか。
最終形として、「正式なおつきあい」をすることになっても、 男と女を意識するようになっても、 やはりそういったものを超えたところに、 二人の意識があるのだろうと思うのだ。
***** 読み終わったのは、本当はもう2週間くらい前なのだ。 小学校に、「初めての感動を大切に」が口癖の教師がいたが、 「新鮮な感動も大切に」と思う今日この頃。 読みたての勢いで書いてしまうのが、 なかなかに楽しいものだと、気づいたというのに。
2004年09月27日(月) |
オモテとウラ(柴崎友香『きょうのできごと』) |
柴崎友香『きょうのできごと』読了。 行定監督が、一読惚れして映画化したらしいので、 はて、なにがそんなに魅力的だったのか、興味がわいたので読んでみた。
たしかに、面白い。 とりたててなんということもないフツーのことを、 淡々と、書いている。 が、そのフツーさが、リアルで、愛らしくもある。 それにしても、やっぱり、だからなんなの?っていう気もする。 わざわざ「作品」となるようなお話じゃないんだけどね。
一人称の地の文がほぼ標準語で、会話がばりばりの関西弁。 そのギャップに多少違和感を覚えなくもないが、 それがためにオモテとウラをうまく表現できているのかもしれない。 半ば本能的に、半ば無理矢理にはしゃいでいる会話と、 でもその実、内面では冷静に自分や周囲を分析している、 そういうところ。 たぶん、誰もがそういうことを日常的にしていると思うので、 身につまされるようでもある。
しかし、映画はそのまんまじゃないか。 原作の会話が、かなりそのまま使われている。 なまじ映画を観てから読むと、役者たちの声がリアルによみがえってくる。 でもべつに、台本読みたいわけじゃない。
映画では、必然性が感じられなかったクジラと壁男は、原作にはなかった。 なんだ、やっぱり後付なのか、という感じ。 どうしても映画には何か盛り上げが必要なのだろうけれども、浮いてしまっている。 メリハリもなく、山場もなくても、原作はこれで世界が完成されているんだよね。
2004年09月24日(金) |
作者悪ノリが目に浮かぶ(小林めぐみ『食卓にビールを』) |
小林めぐみ『食卓にビールを』読了。
単純に、お馬鹿なノリが楽しいかも。 16歳のくせに、やたらめったら物理(?)に詳しいのは、 やっぱり小林さんの分身なんでしょうな。 とってもマニアック。
でも、何を難しいこと言ってんのかわかんねーよ、 という状態でもストーリーは楽しめちゃうのは、相変わらずさすが。
小林さんの持ち味は、こういうお馬鹿なノリと、 精密に重厚に世界を作り上げる真面目路線とあって、 わたしは後者の方が好きなのだけど、 だんだん前者が増えているようで、ちょっと悲しい。
ま、小林さんの生存証明だと思えばいいか。
***** 谷山浩子のニューアルバム「メゾピアノ」を聴く。 うーん、谷山浩子にピアノはよく合う。当たり前だが。 1日で2周半もしてしまった。 もっとも、ぼんやりと流していたので、どれがどうとか言えないけど。 いろんなことが耳障りに思えるとき、きっとぴったりだと思う。
谷山浩子コンサート「猫森集会」へ。 念願かなって、初めてのオールリクエストの日。 頑張ってチケット取ったからね。
オールリクエストというだけに、本当にその場で次の歌が決められていく。 クイズしたり、お札の番号を比べたり、谷山さんとジャンケンしたり、 決め方はいろいろだけど、そのたびにドキドキする。 結局、リクエスト権は得られなかったが、 リクエストを聞きにくる谷山さんの姿を結構近くで拝んだので良しとする。
こんな行き当たりばったりな企画を3人で演奏しようっていうんだから、たまげるよ。 谷山浩子本人は持ち歌だからいいとして、 石井AQもずっとプロデュースしているからまだいいとして、 なぜか共演させられている斎藤ネコは本当にすごい。 知らない歌も、その場でコードだかメロディーだかメモって、途中から入ってしまう。 噂には聞いていたけど、プロって本当にすごい。
これはある意味、谷山さんよりネコさんを観にいくようなもので。 実際、ちょうど席から真っ正面がネコさんの背中だったので、 メモを取る左手も、バイオリンの弓を操る右手も、全身くまなく堪能したけどね。
うーん、これはこれで面白いし、 でもいつものように歌が決まっているのも、どんな構成なのか楽しみだし…… つぎはどうしようかなあ〜。
2004年09月21日(火) |
美しき偽善(エレナ・ポーター『少女パレアナ』) |
エレナ・ポーター『少女パレアナ』読了。
パレアナよりポリアンナの方が馴染みがある。 それはどうでもよいのだけれど、「よかった探し」というアニメでの呼び方は、 なかなかのネーミングだったのだと実感した。 「喜ぶ遊び」じゃ、なんのことやら。
『若草物語』や『赤毛のアン』と、 同時代の女性作家の作品なので、まあ同じようなものかと思って読む。 言ってみれば偽善的な、なんでも喜びを探しましょうっていうゲームがメインなわりに、 お説教臭くなく、主人公の奔放さを楽しめるところは『アン』に近い。
パレアナの発言は、そりゃもう見ようによっては偽善のカタマリなのに、 なぜかそうはならないのが、面白い。 病人に向かって、 他の人が自分のようでないことを喜んだら? なんて言っていた本人が、 事故で歩けなくなってしまい、やっぱりそんなふうには思えなかった、 という逆転には感心した。
唐突な事故の発生は、かなりご都合主義を感じるけれど、 これによってパレアナは成長し、また一方に大人のロマンスもあるんだから、 やっぱりこの物語には必要な出来事なんでしょう。 作者は、なかなかに巧みな人だと思う。
蛇足。 名人、村岡花子さんの訳だけれど、さすがに時代を感じます。 貧乏牧師に育てられた11歳の娘が、 「うれしくてたまりませんわ」 って、「ませんわ」ってそんな。 思わず爆笑。
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