マユミの日記
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S先生と出逢ったのはあたしが12歳の頃。 母親の葬儀に先生は兄の部活の顧問として弔問に来ていた。 S先生は後にその時の事を覚えていないと言っていたが、あたしは動物が初めて見たモノを親だと錯覚するのと同じ様にS先生を一目見た時から何故か惹かれていた。 一つとして言葉は交わさなかった。 ただ自分自身の瞳に焼き付けるかの様にS先生を見ていたのを覚えている。
それから月日が経ってあたしは小学校を卒業した。
母親が亡くなって以来あたしは精神的な不安を全て自分の中に押し込めて毎日を過ごしていた。 口数も少なくなった年頃の娘に父親は心配すらしたが、やっぱり最愛の妻を亡くしたという喪失感の為か次第に家に帰ってこなくなった。
あたしはあたしで中学に入学したものの周りにいる同級生たちの子供加減にうんざりしていた。 クラブは吹奏楽部に入部する事に決まった。あたしのパートはトランペットだ。顧問の先生を見てあたしは息を呑んだ。S先生だった。 S先生は生徒に優しくてどちらかというと生徒になめられてるタイプだった。だけど話しやすいS先生だったから生徒には人気があった。
あの頃のあたしにはS先生は重要ではなかった。 ただただ中学1年生の生活を淡々と過ごしていた。
マユミ
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