2年前の夏、旅行で城を訪れた。 休日の暑い日で人ではそこそこ多く、天守閣に登るにも待たされるような具合だった。
熱中症に注意がはらわれるようになった昨今、待たされる人たちは日陰に並ぶように誘導される。 その城では藤・・・だったのだろうか、アーケード状になった緑陰に並んで、観光を待っていた。
なんとか飽きる前に天守閣に登り、暑い暑いと呟きながら下りて、すぐに目指したジュースの自動販売機の方は、確かに藤棚の下にあった。 冷たい水分を補給してほっと一息ついたときに、私とQはそれを発見したのだ。
藤棚から下がる、なにやら大きな豆のさやのような。
おそらく種だろうとは予想できたが、今まで藤の種が生るなんて想像したこともなかったため、ふたりでしばし議論。
あっちの、待ってた方の藤にはさがってないよね、 藤って雄株雌株なのかな、 つる性だから言われてみれば豆っぽいよね、 花が5〜6月? なら種でもおかしくないねえ、 まださやが青いね、種もまだ熟してないのかなあ、 さやが茶色くなったら種が熟成だろうねえ、 秋かなあ、 これ青いまま収穫して、ほっておいたら熟成しないかな、 やっちゃう? やっちゃう?
そんなわけでひとさや失敬して持ち帰った。 種泥棒といったところか・・・(犯罪)
そのまだみずみずしい豆さやは乾くまで本当に我が家のベランダにある エアコンの室外機の上に放っておかれた。 からっからに乾いた秋の頃、さやに収まっていた3つの種は空いた植木鉢に放りこまれた。 忘れないよう念のため、「藤」と書いたスティックを刺して置いた。
昨年の春先、植物をあれこれ植え替えていた際 「これ、生えてこないね、あけて別のものを植えちゃおう」 とQがもぞもぞしていたと思うと、 「根っこ出てる!」 と声をあげた。 3つの種の内、ひとつだけが小さな白い根を出していた。 喜び勇んで植え替えてやると、温かさも相まってみるみる芽を出し、 茎をのばし、葉を茂らせた。それはもうびっくりするほど。
余所のお宅の藤棚を見るたび、うちのこもああなるのね、と二人でうっとりした。
秋になり、冬になると寒さゆえすべての葉が落ちた。 どこの藤もそうだったので、なるほど冬には葉が落ちる植物なのか。と学ぶ。 いつも目にしているのに、育ててみてやっと知識になるものだ。 まるですっかり枯れたようだったうちの藤も2年目の春を迎え、ひやひやしていたが小さく緑の芽が出るとあれよあれよという間に葉を伸ばした。
おかえり。 いつ花が咲くかは分からないけど、大きくなるんだよう。 とうれしく眺めている。
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