川底を流れる小石のように。 〜番外編〜 海老蔵への道!
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2005年10月10日(月) |
長月のおわりから、神無月のはじまり。(まとめてどん!) |
9月の末に、もう一度、海老蔵巡業を見納めのために、新幹線に飛び乗る。 お弁当は以前、葵太夫さんが日記に書いておられた「味の博覧」にした。 これはお値段も手頃で、一つ一つ丁寧に作られた感じの味で、 すっかりお気に入りに登録。 してみたのではあったが、後にこのお弁当、万博期間限定弁当と知る。 おりしもこの日は、万博の最終日。 私も、ギリギリセーフで食べられたというわけだ。
名古屋から、さらに「ビューわかしお」に乗り換える。 ホームでのわずかな待ち時間に、ふと見ると、スッキリ爽やかな表情の葵太夫さんがいらっしゃるではないか。 先ほど食した「味の博覧」弁当も、葵さんの巡業日記のおかげで出会えたわけだし、 何しろ私の中では、とても近しい気持ちが芽生えているわけだが、 (実はこの巡業中、とあるお蕎麦屋さんで、席が隣り合わせたりもした) 葵さんにとって私は、見ず知らずの通りすがりの人にすぎないわけで、 そういう近しい気持ちはともかく飲み込んで、心の中でご挨拶のみ。
しかし開幕時間には余裕があるとはいえ、葵太夫さんと同じ列車になるとは・・・と驚き、 さらにクルリと見渡すと、 おお、あそこにいる、何やら大柄な青年、あれは本日の主役の海老蔵さんではないか! 白い長袖ジャージに、お揃いの短パン、素足に下駄、というその姿は、 先ほどのスッキリの葵さんとは対照的で、 ひょっとして、15分前まで寝てなかった?みたいなボーっとした表情に思える。 とほほ。 しかし過酷な巡業も、いよいよラストスパート。 きっとお疲れなのだろう・・・。
そうして、海老蔵さんは、何やら売店でお弁当を選んでいる様子。 思いがけない主役との遭遇で、かなり舞い上がってはいたものの、 ってことは、これから向かう会場は、かなりの立地場所ってことなのでは?と、何となく心配になり、 私も慌ててお弁当を一つ購入。 後に、この判断は大いに役立ち、本日のホールの周りは、実に広々と何にもないところで、 おかげで美味しく「名古屋コーチン弁当」をいただくことができた。 しかし、ここで食の心配をする、オノレのくいしんぼぶり、 そして、海老蔵さんと同じ売店では購入する勇気もなく、 ホームの反対側の売店でひっそりお弁当を買ってしまうヘタレぶり、 ああ。
予想通り海老蔵はグリーン車へ。 私がえきねっとでとっておいた切符は、隣の車両。 同じ電車に乗っていると思うと、なんかまるで「お練り」の時の海老蔵号みたいだ。 目的地まで1時間近く、もう一眠りするつもりだったのに、 今頃になって興奮してきて、眠るなんてとんでもないのだった。 携帯の待ち受けだって、ここ何年もずっと海老蔵だし、 思えばこうして、慌ただしい日程で新幹線に乗っているのも、その人の舞台を観るためだし、 そんな人が隣の車両に?!などと、1人でグルグル考えると、 今頃になって、プチパニックキヤーきやー状態に。遅いよ。
最寄り駅でホームに降り立つと、 ヴィトンのゴロゴロを引っ張り、おでこにサングラスで改札へ向かう海老蔵さん。 その背中に、舞台頑張ってくださいと、またしても心の中でのみ声をかけておく。
この日のタクシーの運転手さん、ずっと昔歌舞伎の衣装の仕事をしていたとかで、 歌右衛門さんの舞台は何度か見たことがありますというと、とても喜んで、 大いに盛り上がり、タクシー代をオマケしてくれたのだった。 この巡業では、よそでも歴史オタク(?)な運転手さんと、実盛の話で盛り上がり、 タクシー代をオマケしてもらったのを思い出した。 東美濃ふれあいホールは、満席でも600人というコンパクトさで、 でも新しくてキレイで、歌舞伎専用に立派な花道もあり、 とても好もしいホールだった。 ここの柿落としには成田屋さんもやってきて、團パパの毛抜をやったそうな。 この日の昼の部の実盛は、私の中では、この巡業のベスト実盛だった。 物語のくだりが、実に素晴らしく、 船上での出来事やそれに相対する実盛の心情が、ひしひしと伝わり、 思わず涙。
先日の松山で感じた違和感もなく、 とするとあれは、3000人収容ホールゆえのものだったのかも。
夜の部は、喉が辛そうに見えて、 それは海老蔵だけでなく、葵太夫さんも日記に「歯磨きのチューブの最後のひと絞り」と後に書いておられ、 長かった夏がしのばれるのだった。
帰りの新幹線は満席。 名古屋万博帰りの人々の熱気と、ぐったりとした疲れが車内に満ちていて、 そちらも最終日お疲れさまと思う。
襲名の最後の巡業で、あちこち出かけ、名古屋には冷凍マンモスが来て、 湿度の多い、長い夏だったこと、 きっとずっと後で、思い出すんじゃないだろうか。 予定外だった西コースだけれども、来てみてよかった。
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「吉原御免状」を観た。 スピード感のある舞台で、面白かったが、 そのスピードゆえに、もっとタップリしてもいいのでは?と思う場面も駆け足で、 勿体ないような気がした。 マイクを使わない生声の歌舞伎に慣れすぎているからか、 役者さんの声は勿論、つぶやきや溜息、あらゆる動きの効果音までが、 全て180パーセントスピーカーから聞こえてくるので、 なんだかびっくり。 アニメのアテレコの音に合わせて、役者さんが口パクしてるような居心地の悪さで、 人気の舞台に自分がついて行けていないのが、やけに寂しい。
☆
「チャーリーとチョコレート工場」を見た。
うひひ、松竹の映画なので、歌舞伎会で1000円で見られるのが嬉しい。 予告の最初に11月の菊ちゃんの「児雷也」のCMが流れたのにもびっくり。
そして、映画は、うひょひょ〜!なツボのオンパレード。 久々に、コドモ心が刺激され。ワクワク〜にまにま〜っとしてしまう。 一緒に行った友達は「・・・!・・・!?・・・・・。」な反応だったので、 1人でワクワクして、申し訳ない!みたいな気持ちだった。
小さい頃ディズニーの「ふしぎの国のアリス」が好きで、 あの映画のわけのわからなさや、ちょっとコワイとこや、かなしくなるとこや、 そういうの、ぼーっといつまでも考えてるコドモだったので、 当時これを見ていたら、私はどう思っただろう? チョコの香りがしてきて、ぴょんぴよん跳ねたくなるような映画だ。 Saさんのところで、会話が弾んでいるのも楽しい。
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海老蔵の主演映画「出口のない海」の原作、 横山秀夫「出口のない海」を読んで、悲しくて悲しくて。 10月3日に行われた制作発表では、会場に人間魚雷「回天」のレプリカが置かれていて、 その黒々と光る姿が、目に焼き付く。
あまりにも気になっていたら、靖国神社内の「遊就館」に回天が展示されているという。 早速友達と出かけた。
恥ずかしながら靖国神社へ行くのははじめて。 けれど私の住んでる最寄りの駅から、地下鉄で一本、 あまりにもサックリと近くにそれはあった。
雨の中、思っていたよりも大勢の人がいる。 たこ焼きや甘酒の屋台、靖国蕎麦やおでんが食べられる茶店、 若い人や外人さんも多く見かけた。
けれど、きちんとした身なりの大勢のお年寄りのグループを見かけ、 その白髪や、ゆっくりした足取りや、交わす握手を見ていると、 戦後60年ということを実感。 それぞれの人の中の「靖国」のことを考えてしまう。
しっかりとお参り。 いつもの家内安全ではなく、心の底から平和を祈る。 おみくじをひき、境内で行われていた「草鹿式(くさじしき)」を見物。 鎌倉時代から伝わる弓の儀式なんだそう。
いよいよ遊就館へ。 思っていたよりもずっと広く、贅沢に作られている。 展示が次第に近代に近づいてくると、胸がしめつけられるようだ。 途中で引き返し、上映されていた映画「私たちは忘れない!」(50分)を見る。 軽い気持ちで見てみたのだが、これがガッツリくる内容。 ナレーションや構成に、正直疑問を感じるところもあったけれど、 それでもこの映画を見てよかった。 実際に回天を見送ったお年寄りが 「こんなに若くて力みなぎる生き生きとした人たちが、 どうして死にに行かなければならないのか」と思ったと語っておられて、 切なかった。 ここは色んな意味で、自分のスタンスを問われる場所だ。
展示室をすすむと、3000名の遺影が壁一面に展示されている部屋へ。 それとともに、遺品や遺書、家族へあてた手紙が展示されていて、 一つ一つ見ていくと、次第に言葉も少なくなってしまう。 回天隊の若者が、一日だけの休暇をもらい実家へ帰った日のことを書いた葉書など、 「出口のない海」はノンフィクション・ノベルということだったけれども、 小説の内容と通じる、実在した人の肉声にふれると、やはり驚く。
多くの若者が家族にあてて、「靖国で会いましょう」と記してあり、 ここは当時の兵隊さんの心のよりどころでもあったのだと知る。
最後に大展示室の回天のところへ。 黒々と、こんなものがどうして作られてしまったのか、 ただ黒々とした、窓一つない鉄の塊にさわってみる。 うねうねと絡み合う鉄のパイプやバルブ、 どういう仕組みで、これが海底を進むのか不思議だ。 こんな鉄の塊に乗り込むなんて・・・。
気がつくともう閉館時間。 最後にビデオライブラリーがあり、30本近いビデオが見られるらしいのだが、 本日は時間切れ。 その中の一本「回天」(18分20秒)は、また見に来ようと思った。
ドライにサクサクと気軽に見て終わりのつもりだったけれど、 やはりそんなことは出来ず、あっという間に3時間、 それでもまだ時間が足りないと思う。 友達と、1人で来なくてよかったね・・・と言いあう。
そんなこんなで、相変わらずバタバタと、そして思っていたよりも濃く過ぎていく秋のはじめ。 モヘジのエンピツ日記「なにがなにやら」も「枕もとに靴―ああ無情の泥酔日記」というタイトルで、 ここや、ここや、ここでも、絶賛発売中!
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