2006年10月08日(日)<<<鏡の裏 2
いつも距離があった。 私の周りには私が作ったかのように、硬く脆く透明な殻が張り巡らされていた。人を容易に寄せ付けず、けれど自分を守れるほど強いものでもない。 その殻の存在に気づいたときは、もう昔のこと過ぎて。
いつの間に殻を作ったのか。 何でそんなものが必要になったのだろう、私は幼い子供だった、そう中学生の頃だった。必要だったの。 それは思春期という当たり前のものが、そっと、いたぶるように、私を傷つけていったから・・・私は、殻を持たないといけなかった。
結果。 親友と呼べる友達は、いなかった。
少女は一人、お寺の境内を歩いていた。朝。制服のスカートをを風になびかせながら、お寺の境内の坂をずっと上っていった。 てっぺんまで上ると少女は教科書とお弁当の詰まった、学生かばんを下ろして座り込んだ。空が綺麗な青だった。静かだった。 中学校へ行かなくては・・・。少女の心は、そう思うことでふさがっていった。教室に入るのも嫌だが、そこで感じる孤独に苛まれるのも嫌だった。 少女の親は両親共に働いていた。 だから少女は自ら担任教師に電話を入れ、体調が悪いので遅刻すると伝えてはお寺に通った。電話は家を出てから、公衆電話からかけた。 途中でブザーがならないように、気をつけながら硬貨を足してはかけた。
少女はお寺で午前中を過ごすと、お弁当を其処で食べて学校へ向かった。午後の授業は受けて、遅刻として出席をとって何事もなかったかのように、祖父母の待つ家に帰宅した。 そんな日々が週に2回か3回はあった・・・。 お寺の境内で、午前中は本を読んでいた。いろんな本を読んだ、少女は読書が好きで、それはもう幼い頃から本を読んですごす時間が多かった。
来る日も来る日も、晴れの日は、少女はいつものようにお寺の境内で座っていた。 お寺と少女の通う中学校は、実は同じ小高い丘の上に並んでたっているのである。午前中、チャイムの音も聞こえれば・・・。体育館で体育の授業をする声も、校庭からのホイッスルも聞こえる。
少女は本当は学校へ入りたかった。 でも、どうしても少女は学校の中に自分の居場所を見つけられなかった。 だからひとり、学校の隣の小高い丘で、町を見下ろしていた。
その日、空は晴天で。 雲ひとつない青空だった。 少女は境内のコンクリートの上に横たわった。 制服の下に感じるコンクリートは、暖かかった。 日差しの中、少女は目を閉じた。 少女の右手には、その日、カッターナイフが握られていた。 少女は左手と右手を、近づけて。止まった。 本当にこれが望んだ結果なのか・・・そう、止まった。 少女は目を開けた。 其処には眩い蒼い空が視界いっぱいに広がり、ぽつりと白い雲が浮かんでいた。 閉じていた瞳にその光はまぶしく、焼きつくような蒼さだった。 なぜか少女は泣いていた。
少女は家に帰った。 腕に、傷はつけられなかった。
そして書き始めた。 「blue」という日記を。
生きるということの苦しさも、悲しさも、愛しさも。
あの日の、あの蒼い高い空が。 どれほどの時を経ても、この眼に思い出せるように。 |