読書日記

2003年02月06日(木) コニー・ウィリス(訳=大森望)『航路(上)』(ソニー・マガジンズ)

コニー・ウィリス(訳=大森望)『航路(上)』(ソニー・マガジンズ 1800円22002年10月10日初版第1刷発行 10月24日第2刷発行p413)

死後の世界はあるのか。臨死体験者が見てきた世界は死後の世界なのか。それとも脳が生み出す単なる妄想にすぎないのか。
認知心理学を専門とする医師のジョアンナは臨死体験を科学的に解明するために臨死体験者の聞き取り調査に日々奮闘を続けている。
そこに登場した神経内科の医師リチャードとともに疑似臨死体験の実験を行い、真実にたどりつこうとするが・・・・・・。
400ページを越えるとさすがにその長さが負担で、よいコンデションを維持して読み続けるのは難しい。設定や場面が呑み込めて提出される謎に魅力を感じるまで時間がかかった。「読み始めたら止まらない!」と腰巻きの宣伝文句は強がるが、すれ違いや行ったり来たりなどのドタバタ喜劇的な面白みを秘めていても、またリチャードがあのハーポ・マルクスのポケット技を駆使して名場面を演出しても、辛抱が必要だった。
さまざまな試練のあとに主人公が思い切った行動をとるあたりからやっとこちらの集中力が物語りの展開に食いつき始め、巻末で予想外の人物との出会いに驚いたら、もう下巻に進むしかなくなっていた。
もうこのときには、なんだこの話は、と物語の仕掛けにすっかりはまっているのだった。
それは、必ずしも「読み始めたら止まらない!」ほどではないが、主人公たちと一緒に謎の解明の航海に乗り出した気分である。
前作の『ドゥームズディ・ブック』がハヤカワ文庫になるそうだ。これも長大な物語で読み続ける苦労を強いられたが、読み応えは十分あった。



2003年02月05日(水) エリック・ホッファー(訳=中本義彦)『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』(作品社)

エリック・ホッファー(訳=中本義彦)『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』(作品社 2002年6月5日第1刷発行 8月20日第4刷発行 190p)
紹介文にはアメリカの社会学者・港湾労働者とある。18歳で天涯孤独になった後ロサンゼルスに渡りさまざまな職を転々とするが、
28歳の時の自殺未遂を機に季節労働者となり10年間カリフォルニア各地を渡り歩き、39歳からはサンフランシスコで港湾労働者として働きながら49歳の時にTHE TRUE BELIEVER(邦題『大衆運動』)を発表、著作活動に入る。
沖仲仕の哲学者として知られている。
普通の学校教育を受けておらず、すべて独学の人。その辺のことは自伝なので詳しく書かれているけれども、読み終わって感じるのは学ぶことへの情熱とともに人との交流が豊富だったということだ。さまざまな人たちとの語らいが実によく登場する。
自覚的な労働者であり学問者であった著者はめぐり会いにも大きな価値をおいていたように思う。



2003年02月04日(火) 居作昌果『八時だョ!全員集合伝説』(双葉文庫)

居作昌果『八時だョ!全員集合伝説』(双葉文庫2001年7月20日第1刷発行 277p解説=久世光彦)
あの一世を風靡したお化け番組のプロデューサーが書いた番組裏面史。
当時の番組作りへの情熱が伝わってくる著者の文章は、特にドリフターズのリーダー、いかりや長介の人となりも見事に描写している。
単なる、昔はよかったね式に終わらせない腰と肚のすわった本である。軽いノリの題名からはとうてい想像できない濃さがあるのはその仕事が並外れてしんどいものだったからだろう。





2003年02月03日(月) 津野海太郎『歩くひとりもの』(ちくま文庫 )

津野海太郎『歩くひとりもの』(ちくま文庫 1998年3月24日第1刷発行254p)
いわゆる親本は1993年4月、思想の科学社より刊行された。
独身男を話題にした軽いエッセイ集かと思いきや随分な重みがありました。
「自分用の応援歌」「ひとりもの、年を越す」「コーヒーを入れる老人」「妹の力」「家庭の終わり」「男たちが知らない本」「料理書の哲学」といった題名から内容がある程度推測できる前半七編の後に著者のとんでもない実体験談「なかじきり1 わが愚行」が入り、以下次のように続いていく。
「死体術」「手紙ぎらい」「咳をしてもひとり」「なぜ結婚しないの?」「ニベもない」「自分を変える法」「不意打ち」「他人の家庭」「なかじきり2 ブレヒトと女たちー佐伯隆幸氏との対話」「神は細部に・・・」「歩きながらの読書」「赤いギンガムチェック」「異装について」「おだやかな根拠地」「本を破る」「再編集のたのしみ」「目次癖」「なかじきり3 歩く男の死」「三十歳」「四十歳」「幸福小説のつくり方」「スタイルに凝る」「歩く老人1」「歩く老人2」「散髪の日」「あとがき」「鼎談 人生はなにが起こるかわからない(津野海太郎・山口文憲・関川夏央」「文庫本あとがき」
三編のなかじきりが読みごたえがあった。特に三つ目のあの長谷川四郎のことを書いた「歩く男の死」が重厚でのんびりとしていた頭がショックを受けた。昨年『父・長谷川四郎の謎』(草思社)にも引用されていた長谷川四郎の文章の同じ部分が紹介されていたことにも驚いた。
カバーデザインが南伸坊描くところの旧式のロボットなので軽く見たが、印象が大きく変わった本でした。



 


 < 過去  INDEX  未来 >


イセ [MAIL]

My追加