2012年03月05日(月) |
今宵、魚のみる夢は(仮)・4 |
どんなやつでも経験をつまなきゃ成長できない。当時の魚はてんでひよっこで。人化の術すらままならなかったんだ。 海の民にはある程度の自己再生能力があるから放っとけば自然に治るんだけど、それでも限界がある。その時の怪我というか抗争は相当ひどかったんだ。体を治すことも形式を整えることもままならず、本来の姿のままで海中を漂っていた。そのうち意識もなくなってきて、ああ、オレはここで死ぬんだなあってぼんやり思ったよ。 でも幸いなことに死ぬことは免れた。 「あなた。もうちょっとで死ぬところだったのよ?」 気がついたとき小さな池の中にいた。 人化はとれなくても人の言葉は理解できた。父親から勉強させられていたからね。近いうちに抗争をやる際に役立つだろうって。 「海に遊びにきていたの。そしたら海岸に傷だらけのお魚が打ち上げられているんだもん。びっくりしちゃった」 君の名前は? そう聞きたかったけど本性のままだったから口をぱくぱく動かすことしかできなかった。こういう時、身動きがとれないってのは辛いよね。海では重力もないし気温も一定を保っているから慣れると案外楽なんだ。それに比べて地上の変わりようといったら。 「わたしの名前聞いてるのかな?」 言葉は通じなくても言いたいことは伝わったんだろう。首をかしげたあと、彼女はこう言った。 「わたし、テティス」 それが彼女との、人間との初めての出会いだった。
過去日記
2010年03月05日(金) つかれてるひと(仮)。2 2006年03月05日(日) 旅に出ます 2004年03月05日(金) 「EVER GREEN」5−5UP
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