2012年05月08日(火) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・88 |
「よく来てくれたの。さっそく頼むよ」 エリーさんのご両親──ニナちゃんとウィルくんの祖父母が経営している宿は本当に歩いてすぐのところにあった。なるほど。これなら安心だし手伝いだって行こうと思えばすぐに行ける。 「あやつはどうしているかの。近頃まったく顔を見せてもらえんでの」 頼まれたのは古びた椅子を別室に運ぶこと。腰を悪くしてしまったらしく、代わりになる従業員さんも今日はお休みだったらしい。それでエリーさんの代わりにわたし達がかりだされたわけだ。 「ユータ……ユータスさんのこと、気になるんですか?」 故郷では畑仕事を手伝っていたし、人並みの足腰や体力には自信がある。椅子を抱えながらおじいちゃんに聞くと、そっぽを向きつつこんな声が返ってきた。 「なんだかんだで可愛い孫だからの」 なんだ。しっかり愛されてるんだな。 なんだかホッとすると同時に嬉しくなってしまった。どうしてかはわからないけど。 「小さいころから細工師の修行をしているなんてすごいと思います」 脳裏に浮かぶのは先日の工房での横顔。いつもと違う真剣な表情に声をかけることすらできなかった。悔しいけど、わたしもちゃんと見習わないといけない。 「終わりました。次は何をするといいですか?」 全ての椅子を二階に運び終わっって軽く腰をたたく。幸い今日は予定もないしせっかくだから拭き掃除でもしていこう。 「本当に悪いの。それじゃあ──」 「どなたかいませんの?」
──そして、冒頭に至る。
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