2012年05月30日(水) |
白花への手紙(仮)108B |
「すまなかったな。少年」 一人で帰らせるにもあまりにもしのびなかったので、用事があるからという名目で騎士様と一緒に道を歩くことになった。 「イオリ・ミヤモトです」 少年ではないですという意味を込めて自己紹介すると、そうか。異国の出なのかと納得した顔をしていた。 「イオリか。少年にはよくあっている」 この人は素で言っているんだろうか。悪気があっているようには見えない。 「して少年は、」 ……やっぱり天然なんだろうな。それとも思い込みがひどい人なのか。 「イ・オ・リ・です! 騎士様は耳が悪いんですか?」 頭に血がのぼってしまい、つい声をあらげてしまった。 「私も『騎士様』ではなく名前があるのだが。騎士だってごまんといる。誰のことだかわからないだろう?」 急にまともなことを言われて言葉につまってしまう。ではなんとお呼びすればいいんですかと尋ねると、テオドールでかまわないと返された。 「テオドール……様は、リオさんのお兄さんなんですよね」 テオドール・シャルデニー。リオ.シャルデニーの兄弟で天馬騎士団の一人、しかも師団長様だという。リオさんは赤髪に薄い緑の瞳。対して目前の騎士様は濃い緑の瞳に真っ黒な髪。親のどちらかに似たかによって外見も変わって見えるのはよくある話。だけど、それ以上に二人のやり取りはぎこちないものを感じた。 「お兄さんは騎士様なのに、弟のリオさんは騎士ではないんですね」 何気なくつぶやくと、騎士様──テオドール様の足が止まった。 「違う」 「違う?」 兄弟でばらばらの道を進むこともあれば一家そろって同じ道を歩むこともある。それも珍しくはないんだろう。意図がわからず小首を傾げると、彼は言った。 「道を外れているのは私一人だけだ」と。
過去日記
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