Aブロックでは、桃城がレギュラー落ち決定になった。 手塚との試合は、負けても俺はレギュラーになれる。 でも、そんなことでは満足できない。 自分の、愛しい恋人は強い奴が好きだ。 俺も自分は強いと思ってるが、手塚と比べるとその差は歴然だ。 初めはレギュラー復帰とだけ祈っていたが、それが叶うと次を望んでしまう。
”海堂は強い奴が好き”
これは、俺が勝手に思ってるだけかもしれない。 手塚に対して、ただ単純に尊敬しているだけだろう。 でも、それでも不安なんだ。 たったこれだけの距離が、あまりに遠くて……。 醜い、嫉妬だけが渦巻いてしまう。 こんな俺を知られたくない。 そのためには、手塚を倒すしかないんだ。 どんなにデータを集めたからといって、簡単に倒せる相手ではない。
「今回は勝たせてもらうよ」 「どうかな?」 手塚にしては珍しい、嫌な笑い方。 俺がそう思うからだけなのかもしれないが。 「大切な奴と同じ場所に、最高な形で行きたいんでね」 「そうか、それは残念だな。叶わなくて」 『お前には俺は倒せない』とはっきり言っている。 「いつからそんなに性格悪くなったんだ?」 「お前が卑怯な手を使って海堂を手に入れた時くらいからじゃないか?」 「別に卑怯な手は使ってないけどね。向こうから練習メニューを組んで欲しいって頼まれたんだし」 冷静に言い返す。
手塚も、海堂が好きだった。 ただ海堂に先に告白したのは乾だった。 もしかしたら、タイミングが悪く先に手塚が思いを告げていれば、海堂は手塚と付き合ってたんじゃないかと思ってしまう。 海堂を信じていない訳ではない。 海堂を、信じている。
海堂は、こんな俺を信じてくれると言ってくれた。 不安な俺に、『勝てると信じてる』と言ってくれたんだ。 その期待を裏切りたくない。
「俺には、譲れないものがあってね」 「そうか、奇遇だな。俺にもあるんだ」 「簡単には負けないよ?」 「楽しみだな…」 フッと、お互いに笑う。 それは、さっきまでの緊迫した嫌な笑みではなく。 テニスプレイヤーとして………。
「ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ・乾サービスプレイ!!!」
試合は、始った。
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