先輩が、何であんなに悲しそうに言うのか前は全然わからなかった。 でも、聞いてはいけないような気がして…。 今まで聞くことはく、考えないようにしてきた。 それは、あまりに辛くて…。 こんなに近くにいるのに、心は遠くて。 近づこうとしても、離れられるようで。 先輩は、悲しそうに笑い嬉しそうに泣く。 俺には理解出来ないよ、先輩…………。
こんな風に、すれ違ったまま付き合ってきた。 知りたいと、強く思っても知る術もなくて。 途方に暮れていたとき、部長に話しかけられた。 「どうした?最近、部活に集中できてないようだが」 「スイマセン…」 「いや、怒ってる訳ではない。ただ…心配なんだ」 「あ、大丈夫っすから」 「…乾か?」 ピクッと、海堂の肩が揺れる。 それだけで、肯定していうようなものだ。 「そうなんだな?」 「………はい。わかんないすよ。先輩の考えてることが。どうして、あんなに不安なのか」 「海堂は、乾が好きなのか?」 いきなり核心を突いた質問。 手塚には、余裕がなかった。 訪れたチャンスを、一回でも棒にふるわけにはいかない。 どんな手を使ってでも、構わないと考えている。 「……………」 『好きです』と言いたいのに、口が開かない。 言葉にならなかった。 「俺と…付き合わないか?何を考えているかわからない乾よりも、俺と付き合った方がお前は楽になれるんじゃないか?」
”楽に” そんなに今が辛いのだろうか…? 確かに辛いけど、それ以上に嬉しさが勝っているんじゃないのだろうか…? 手塚に、答えを返すことが出来なかった。 「無言なのは、肯定ととっていいのか?」 「それは……」 「明日の、乾との試合で俺が勝ったら付き合ってくれないか?」 そんな賭けのようなことはしたくなかった。 「約束してくれるなら、乾が何で悩んでいるのか教えてやる」 一種の脅しのように思えた。 海堂が悩んでいるのを良いことに…。
それでも…………………!!!
「……いいですよ」 「本当にいいのか?」 手塚が確認する。 「いいっすよ。だって、乾先輩が負けるはずがないから……!!」 強いなと、手塚は思った。 ここまで、乾を信じる海堂を手に入れた乾が羨ましい。
「乾は………………………」
もう、後戻りは出来ないんだ―――――――――…………………
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