I think so...
Even if there is tomorrow, and there is nothing, nothing changes now.
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2005年09月03日(土) Don't ask me what it means.

ベルが鳴り終わるより少しだけ早く通話ボタンを押した。
液晶に表示された番号は見慣れたものだったけれど
電話帳に登録はしていなかった。

理由は簡単だ。
いつか過去になってしまった時きっと悲しくなるから。

今考えればそれはその時の僕が出来うる精一杯の抵抗だったのかも知れない。

薄っぺらい携帯越しに麻生の声が聞こえる。
もう何度もその声を聞いているはずなのにいつだって麻生は別人みたいだ。
まるでいくつもの顔を持っているみたいに。

電話を切ると僕はひとつため息をついた。

さっきまでキッチンにいた母親がリビングボードの前に立ってこちらに視線を送っている。

僕は努めて明るく話しかけた。
「どうかした?」
言いたいことの半分以上はその目が物語っているのを知っているけれど。
虚ろな目が宙を描きながら喋りだした。
「今のあの子でしょう、こないだ家に来ていた…」

この時ほど女の勘にたじろいだことはない。

「やっぱり母さんはさすがだね。そうだよ、こないだの子。でも大した用じゃない」
「大した用じゃないのにこんな時間に電話してくるの?」
「こんな時間って別に家に電話してきた訳じゃないんだから」
「感覚を疑うわ」

僕はこの人の事は嫌いではない。
だけど時々気が遠くなるような発言をする。
例えば今のような誰かに対しての嫌悪感を露にする時、
彼女と同じ血が自分に流れている事に僕も同じように嫌悪感を持つ。
果たしてその事に気づいているだろうか?

「育ちってね、知らないうちに出るものなのよ」
何回聞かされたかわからないその話に相槌をうつ気力も無い。

「母さん」
ソファから立ち上がった僕をすがるような目で見つめている。
はるかに背が高い僕を見上げるような形で。
「僕は大丈夫だよ」
そう唇を動かしながらドアに向かって歩き始めた。

一体何が大丈夫なのか教えて欲しいぐらいだ。

「わかってる。あなたは私の自慢の息子よ、今も昔も、そしてこれからも」
「ママを心配させるようなことしないでちょうだいね?」

ドアが閉まるのとほぼ同時に声は消えた。



いつだって信じてるは裏切るなとイコールだ。


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