【読書記録】辻仁成「そこに僕はいた」

再読です。ちょうど10年ほど前に読んだ本で、不意に見かけて手に取ったのですが、よかったなぁとしみじみ思いました。

内容は、辻さんが小学生〜大学程度をすごした町とそこでのエピソードが詰まったエッセイ。転勤族だったそうで、福岡・帯広・函館が出てきます。
今回は『そこに僕はいた』を読んで、この本を薦められた意味がなんとなくわかったような気がしました。片足が義足の友達がいた――、それがこのエピソードの冒頭の文。人の気持ち、自分の気持ち、違いがある子・ない子。その友達の心持ちもさることながら、それに相対するだけの何かが辻さんにはあって、そういう感性があったからこそ彼の文には何かが残るのだろうなと思わされました。これもひとつの経験で、その後の中学や高校でもいろいろな良き大人に出会っていて、やさしかったりするだけではなくて、時には愛情を持って叱責してくれたりする、そういう辻さんの環境がうらやましいなと思いました。
将来を考える今だからこそ、胸に響いたのは『白と黒の歌』。画家を目指している大学生でもなく居酒屋で飲んだくれてる、僕よりちょっと年上の青年。そして、その彼が気に入った本。そこに書かれた詩に気がついていたのか、それとも本自体を気に入った…というわけではないと思うのですが、苦いながらにそういう人もたくさん見てきたのだろうなと改めて思って。
『夢の中へ』は、それをもっと拡大させて社会を見てしまったような気がしました。頭ではわかっていても、直に聞こえてくること・見てしまうもの、それってやっぱり違うんだろうな。だけど、それを同級生が縮図として手にしてしまったというのはあまりにも生々しくて、学生だったころの輝きがあるからこそやりきれない気がする。

お金持ちで豊かな環境に恵まれることだけが、豊かな人生ではないのかもしれない。少なくとも、こうやっていろいろな事をして生きてきた辻さんの生き方がいいなと思いました。
それはまるで小説のような暖かさと、現実のほろにがさが混ざった一冊。
NO.01■p200/角川書店/92/11
2009年02月01日(日)

ワタシイロ / 清崎
エンピツユニオン