「硝子の月」
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「起きてる?」 目の前にある紅い瞳が誰の者かを理解するのに、数秒の間を要した。 「……なっ!?」 それからそのあまりの近さに慌てて後ずさる。壁に背中が当たって、手と尻との感触から自分がベッドの上にいることも思い出した。 「ぴぃ」 机の上の相棒が気遣わしげに近くに舞い降りる。翼の起こした風に顔を撫でられて、少年はやっと自分が誰かや今がいつかという当たり前のことを思い出した。 ――自分は、ティオ・ホージュ。ルリハヤブサのアニスと一緒に旅に出て、成り行きで「硝子の月」を探すことになった。 ――今は、『第一王国』の建国祭の午後。そろそろ日も傾こうかという刻限のようだ。 ――目の前にいるのはルウファ・ルール。紅玉の瞳の、「運命を知る」と言う少女。一つか二つか、少し年若いけれど、ついさっきまで見ていた少女によく似ている。
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