「硝子の月」
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2006年03月21日(火) <輝石> 朔也

「また、おかしな夢を……」
 顎に伝い落ちる汗を拭いながら、ティオは無自覚につぶやいていた。
 おかしなこと。こんなことばかりだ。この国に着いてからというもの。
 おかしな夢? とルウファが首をかしげた。なんでもない、とティオは答える。
 英雄たちの夢。まあこの祭の熱気に促されたのだろうと思う。もしかするとそうではないのかもしれないが、そうだとすれば考えてもわからないことになる。
 実質、ティオはここまで来ても何も知りはしない。腹立たしい事実ではある。
「……なあ、そういえばこの国の英雄って」
輝石の英雄ジェム・オブ・ヒーローズ?」
「そうそれ。……五人だよな?」
「何言ってるの今更」
 あたりまえに頷かれ、そうだよなぁとティオはつぶやく。それなのに夢の中。その輪の中には、静かに微笑むだけの六人目がいた気がするのだ。どこかで覚えがある気のする、遠い印象。
 目を閉じてもその面影は遠く、はっきりと思い出すことはできない。けれど、美しい瞳の英雄たちの中、見劣りしない光を宿すまなざし。金とも銀とも言い難い、あの内から淡く光るようなうつくしい目。
 英雄の王の傍らに、ひっそりと咲く花のような女がいた。
 或いは太陽の傍らの、やさしい月のような。


紗月 護 |MAILHomePage

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