「硝子の月」
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「お取り込み中のところ失礼するよ」 老人の正体を告げようとしたところに、次の来訪者はやってきた。 青金石の瞳の青年である。 「国王!?」 昨日会ったばかりの人物の姿を認めてグレンが思わず叫ぶ。いかにここが由緒正しき貴族の館とはいえ、そうそう現れていい人物ではないはずである。今日は何だってこう、本来であれば自分とは縁がないはずのお偉いさんと会うのだろうと軽く目眩がする。 「いいや、『はじめまして』さ」 青年は驚かれたことが嬉しそうに笑う。もっとも、グレンの他に驚いていると判るのは目を見開いたティオだけなのだが。 「俺は『影王』。この国の護りの一つ」 「この国の護りって……」 「アルバート三世が言ってただろ? 『この国の護りは一つじゃない』。言ってみりゃ『硝子の月』の同僚みたいなものだな。俺の場合は代々の王の影武者を務めている」 どうやら人ならざる存在らしき青年は、あっけらかんと言って笑う。 「ちょっ、待て! そんなことべらべらと……この爺さんはこれでもよその国の王様なんだぞ!」 グレンが慌てて割って入り、先程老人が言った「本業」とはそのことかとティオは目を丸くする。 しかし慌てたり驚いたりしたのは、またこの2人だけだったらしい。 「ああ、いいんだいいんだ。この爺さんは俺がアルバート本人じゃないって初見で見破りやがったから」 軽い調子で言いながら、青年は顔の横でひらひらと手を振った。 「気配が違ったのでな」 「普通はそこまで同じだと思うもんなんだよ。これだから『剣の国』の連中は油断がならない」 青年は大仰に眉根を寄せてみせた。
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