「硝子の月」
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通信を終えると、紫紺の髪の少女は微笑みながら振り返った。 「それでは皆さん、参りましょう」 そして事も無げにそう言う。まるで近所に散歩に出掛けるような気軽さである。 「ちょっと待ってくれるか?」 うっかり流されてしまいそうなその気安さに、グレンが待ったをかける。『英知の殿堂』の名を耳にするのは猫ばあさんに薬を作ってもらった一件以来である。あの時でさえ、お伽噺にしか聞いたことのないその存在が現実のものだったことに驚いたというのに。 「その、なんだ。『英知の殿堂』に、行く、って……?」 「ええ」 聞き間違いだろうかと返した問いに、彼女は笑みを浮かべたまま、やはり事も無げに頷いた。
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