のづ随想録 〜風をあつめて〜
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2005年01月10日(月) 「亀屋」と「木村屋」、どっち?

 ――と言っても、出かけた本人はツマのみ。我が社は国民がえへらえへら笑って休んでいる祝日ももそもそと通勤電車に揺られ仕事をしなければならない極悪非道な会社なので、俺は行けなかった次第で。
 ウチは初詣は浅草寺、と決まっている。俺自身は詣でるお寺にこだわりはないが、ツマがもう十数年初詣に浅草寺に足を運んでいるのだ。今年は正月休みが中途半端に短かったので、夫婦そろって出かけることが出来なかった。会社が始まってしまうと、オットはなかなか時間がつくれないでしょ、というわけで、ツマが我が家を代表して初詣に挑んだのだ。
 初詣に行くと必ず買うのが“人形焼”。ご存知かどうか、浅草寺で人形焼といえば「亀屋」と「木村屋」。ウチの夫婦は頭が悪いので、毎年、こんな疑問を繰り返しているのだ。

『「亀屋」と「木村屋」、我が家が好きなのはどっちだっけ?』

 たしか「木村屋」だったよね、とかあやふやなことを言いながら店の前で列をなす行列に並び、その一方だけを買って帰るので問題が解決しないまま数年が過ぎる。確か、結婚して初めての初詣のときに、贅沢をして両方の人形焼を買って食べ比べをしたことがあって、その時に夫婦揃って出した答えが、

『浅草の人形焼は「○○屋」に限る!』

――だった。この伏せ字のところがいつも思い出せない。ばかだ。

 今日、仕事から帰ると、テーブルの上に小さな包みがふたつ並んでいた。
「お、買ってきたね、両方」
「いよいよ、“我が家が好きな人形焼はどっち”の問題が解決されるときがきました」
 俺は人形焼は後回しにして、ツマが用意してくれた夕食のかにチャーハン。ツマは俺の前に座り、ふたつの包みからひとつずつ人形焼を取り出した。
「ツマが好きな“五重塔”の人形焼を食べてもいいですか?」 と聞くので、どれも変わらないでしょう、好きにしなさい、と許可。
「ナニを言っているの。“五重塔”の人形焼は他のと比べてカステラ部分がやや多いんだよ」
 ……そんなこと考えたことないです。
「木村屋の人形焼はメインじゃないほうの店があるじゃない? あっちに行ったからすぐに買えたんだけど――」 ツマがこのふたつの人形焼を手に入れる過程を熱く語りだした。「――亀屋はちょっとてこずったのよねえ。亀屋は職人のおじさんがたった一人で作ってるのね。それも一度に6個しか焼けないフライパンみたいなやつ? あれで作ってるから大量生産できないみたいなの」
 ツマはまず「亀屋」の“五重塔”のてっぺんをぱくりとやり、お茶でそっと流し込んだ後、同じように「木村屋」の“五重塔”のてっぺんを口にした。
「――ふむ、ふむ。なるほどね」 人差し指と親指を交互に舐めながら、彼女はうなずいた。俺は彼女の審判を待った。
「亀屋です」
「亀屋ですか」
「亀屋です。間違いありません。買ったばかりのときに両方を隠れて食べたときはわからなかったけれど――」
「(浅草寺に独りでお参りに行って、人形焼を立ち食いしたのか、この人は……)」
「冷めたのを食べると違いが分かります。亀屋です」
 改めて、我が家が愛する人形焼は「亀屋」に認定された。ココを更新し終わったら、俺も冷めたコーヒーのお供に「亀屋」と「木村屋」の食べ比べをしてみよう


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