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嘘をひとつ - 2002年01月13日(日) 嘘をひとつ あなたに隠し通すため もう二度と同じ朝を待たない ************ ****** *** * 久しぶりに自宅に友人を招くので、花を買って帰ろうと思った。ポピーの花、白と黄色、濃淡のオレンジ。春ですねえ、と店員さんが微笑む。ああ、本当に。季節のことなら花の色が知っている。 水色のガラスの花瓶にざっと入れた後、思い直して、昔お花の先生から頂いた、白くて変わった形の花入れに活ける事にした。茎の曲線に癖があるので、上手に花の顔を上を向かせられなくて苦戦したけれど、なかなか満足。 - 明け方の夢に涙し - 2002年01月10日(木) 明け方の夢に涙し目覚めれば 冷たき枕に 悲しみが満つ ************ ******* *** * 遠縁の人が自ら命を絶ったと聞いた晩、母方の祖父と実家の祖母が亡くなる夢をみた。泣きながら目覚めると、随分涙を流していたらしい、しっとりを涙を吸った枕は冬の朝らしく冷えていて、我がことながら眠っている間にもどれほど泣いたものかと驚かされた。 幼い頃に一度会ったきりの、正確には血の繋がりもない、顔さえ覚えていない叔父。 未成人の子供ばかり4人、残して死ぬのには一体どんな理由があったのだろう。そしてどんな気持ちで最期の一瞬を。 噂の伝播の早い閉鎖的な海沿いの田舎町で、自殺した父親を持った子供が成長するのにまとわりつく苦難は想像に難くない。そんな事は叔父だって知っていた筈だ。 しかしそれでも、死ななければならないと彼は思ったのだ、おそらくは。 自ら死を選ぶという行為が、父には全く理解できないらしい。 まだ私が高校生だった時、何の拍子にか迎えの車の中でそんな話になった折、決然とした口調で父は言った。死ぬ勇気があれば何だって出来る、それなのに逃げて死んでしまう奴は弱虫だ。わたしは黙ってグレーのセーラー服のスカートの裾を見つめた。父は心の強い人だ。とても強くて、それゆえに僅かに傲慢だ。 父には恐らく想像すら出来ないような思考経路を辿った末に世を去った叔父の心象を、ごく僅か、ほんの一握りだけなら理解できるような気がする。これは私の傲慢さなのだろうか。答えて欲しいわけではないが、答えをくれるべき人がこの世にいない事を思うと、どうにも痛々しく切ない。 - 星落つるまで - 2002年01月08日(火) まばたいて 見据えよ今や雪闇の宿る瞳に星落つるまで ************ *** ** * ささやかな新年会。 焼き肉を食べて、少し飲み過ぎた少年(と形容したくなるくらい、ベビーフェイスで可愛らしい雰囲気をしている)1人と改札前で別れるが、どうも心配になるくらいポーっとしている。 「武之内君、大丈夫かな」 「うん、ちょっと心配」 「変なオヤジに突然腕組まれて、アイス食いにいくかとか言われたりしたら…」 「……それは俺」 2人で苦しくなるくらい笑う。まさにこの地下道で、かれは以前そんな妙な目にあっているのだ。 - 胸に氷を - 2002年01月06日(日) 触れられぬ 氷をひとつ抱いている 隣にいたなら水になるのに 降り積もる音を君にも聞かせたい 耳に痛くて胸には熱くて ………… 氷塊。自分では触れられない、誰かが触れてくれたらと望む事すら傷になる。誰のためにも。 - 雪嶺温泉記 - 2002年01月05日(土) 温泉に行こうよ、と昼前に起き出した私が言う。 ゆうべ寝る前にも一応話を振っておいたのだが、両親ともレスポンスは悪くなかった。 でももう昼よと母が少し渋る。ロールカーテンが年中上がりっぱなしの大窓から見える外は雪模様で、外出意欲を失ってもおかしくないとは思う。けれどこればかりは譲れない、雪見風呂くらい素敵なものはないと私は思っている。父は黙ってソファでTVを観ている。こんな空気の時の父の肯定を私は疑わない。伊勢丹か温泉どっちか行こうよと食い下がってみると、「伊勢丹はだめ、昨日もお買物したし……温泉、行くの?」父に判断を委ねる。当然返事はイエスだ。 温泉までの道のりの途中にある、父の親友が商っている手打ちうどんのお店へ寄り、おいしい(義理ではなく、本当に絶品だと思う)うどんを頂いてから咲花温泉へ向かう。鄙びた温泉街で、雰囲気とお湯がいい。 父が贔屓にしていた旅館の駐車場がいっぱいで、隣にあった別の旅館にする。外壁がコンクリート打ちっぱなしになっている和風の玄関は、最近改装したばかりなのだろう、とても綺麗で趣味がよくて感心してしまった。自分の家がこういう感じでもいいかもしれない。 残念ながら露天風呂はなかったが、浴場の一面が高い天井までガラス張りになっていて、ずらりと雪の嶺が見える。山は大きくカーブを描いて、その手前には広い川が横たわる。さらさらと粉雪が舞っている。日本画のようだ。掛け軸になっている、山水画そのもの。広い湯に母と私の他にお客さんはいない。私はこの幸福な時間のあとにくる煩雑についてふと思い描くが、すぐ考えない事に決めてしまった。 時々休憩しながらぼんやりと長い時間入浴すると、足の先まで内側から暖まるようで気持ちがいい。 帰りの車の中では、渋っていたことなどすっかり忘れたように母が幸せを語る。 家では犬が私の帰りを待っている。1日1度のお出かけの時間を心待ちに。 - 雪の原に雷 - 2002年01月04日(金) 冬雷がじわり近づき面上げる 君は恐らく神をも怖れじ 雪原を照らし瞬く遠雷の ほの青白きプラチナの波 ゆきのはら 雷落つるその後に 神をも怖れぬ君の目を覗く ********** ** *** ****** *** * 朝から買い物に。なんだか今年は元旦から連日買い物に出ている気がする。 今日はバッグを2つ。コーチのハンプトンズのシリーズ、ベージュ色を母とお揃いで。サイズが丁度よくて使いやすそうで、一目惚れみたいなものだったと思う。鞄は沢山入るのが好きだ。 午後からビデオをレンタルしに行く。雨で午前までの雪が溶けて、足元がひどい有り様だ。もうしょうがないので、苦笑いしながらばしゃばしゃ歩く。その後ドラッグストアにも寄る。父はどうもリアップに興味があるようだが、店員さんに質問するまでの意欲はないらしい。今度こっそり質問してみて、大丈夫そうならプレゼントしようかと思う。引っ掛かるのは心臓疾患だっただろうか、血圧だっただろうか。 帰宅してから、犬の散歩へ。ファーの縁取りのフード付コート、リビングにかけてあったのを勝手に拝借してしまった。中に入っているのは羽毛だろうか、風を通さなくてとても暖かいけれど、暗くなってからの散歩には真っ黒は危険かもしれない。車のライトが近づいて来ると少し不安になる。 日暮れ後の灰銀の道を歩く間にも、雷がどんどん距離を縮めて来る。最早遠雷とは呼べない。地平では滑るように車のライトが流れている。瞬時に世界がまたたく、昨夜見た星の色に似ていると私は思う。雷は怖れるべきものだと子供の頃に聞いた気がするのに。 - カシオペヤ光る真下走りて - 2002年01月03日(木) 雪の雲ふと途切れ仰ぐ星の海 カシオペヤ光る真下走りて ************ ******* **** * 雪が止んで、滅多にやらない位のレベルで防寒対策をしてから犬を連れ散歩に出る。強風に煽られて重そうな雲も流れているらしい、見る間に台風の目のような穴が開いていく。 - 降り積む - 2002年01月02日(水) この冬をあなたと越したい そう願う矛盾は降り積む白に埋もる 恐るるに足らぬ些事よと誘惑す 考えなしと呼ばれることなど **************** ******* *** * 今日は大雪。おかげでゴルフに行く予定だった父が家にいる。朝早くから、「今日は中止で」という連絡をゴルフ友達にまわしているのを聞いた。その横で私は笑みを浮かべる、今日の予定はお買い物に変更。 リビングの窓から見える、松の枝に積もった雪が重そうだ。 お正月の花を活けるのは、ここ数年私の仕事になっている。 花入れは決まって黒のマットな焼き物、手前に金がひと刷毛入っていてお正月らしい。玄関の靴箱の上が定位置だ。松と万両、白菊、カスミ草、金にスプレーされた枝、紅白の水引を仕上げにくるくると捩って飾り付ける。金色の枝(何の枝だろう?)はたわめて、活けた花の背景になるように円く2つ入れた。 松のヤニが手に付いてしまって、なかなか取れない。薬品がないと、洗剤や石鹸ではちっとも落ちないのだ。薬品…ストックがあっただろうか。ううん、ちょっと困った。 - 除夜の鐘、突けず。 - 2002年01月01日(火) 日付が変わってから例年どおり鐘を突きに行くと、丁度百八を数え終えた所だった。目の前まで行って断念。残念に思いながらお参りをして帰宅する。 群雲の中天には欠け始めた月の青白い影。 夏に始めたこの短歌日記も、無事年を越すことが出来た。素直に嬉しい。 見て下さっている方々、たまに投票して下さっている方も、本当に有難うございます。今年ものんびり頑張りたいと思いますので、宜しかったらお付き合いくださいませ。 皆様にとっても良い1年となりますように。 - 雪の夜をゆく - 2001年12月31日(月) 君を連れ 雪の夜をゆくなめらかさ サンルーフから満ちた月見ゆ ************** **** ** * 今日から暫くの実家暮らし。 東京の暖かさとは比ぶべくも無い程の冷気に満ちて、濃い雪雲が空を覆っている。 サンルーフを開ける。勿論硝子戸は閉めたままで。輪郭がぼやけた大きな月が見えた。雲が薄くなった所から、ほんの少しの間だけだったけれど。 昨日届いたきまぐれなメール、あの人はもう自分の家に帰っている頃だろうか。タイミングが悪くて会えなかったことが悔しい。 こんな風に冷たくて広い空に登った月を、かれも見ただろうか。 -
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