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ひたすらに - 2002年03月06日(水) ひたすらに あなたを恋うてもこの空を 誰のものかと問ひてまた悲し ************** ******** *** * 「1日1笑、だね」 可笑しそうに友人が笑う、どうやらわたしの事を指している。イチニチイッショウ。あまり聞かない言葉だ、多分今作ってくれたんだろう。会議の議事の途中でそっとお手洗いに抜け出したら、個室で誰かの忘れ物のバッグを見つけた。放っておくわけにもいかないから事務室に届けて、ついでに用事を済ませて戻ってみると、いない間に何やら私の不在を巡って爆笑のひとコマがあったらしい。 「…もう、おかしくって…最高だったよ。声かけようとしたらいないんだもの」 いない間にそんなに笑われているとは。道理で戻った時の同期の表情がおかしかったわけだ。 そして私のせいではないけれど、会議は恐ろしく延長した。 疲労した時には濃くて甘いものが欲しくて、OGGIのチョコレートケーキを買って帰る。ケーキというよりはチョコレートの塊だ。濃厚で甘すぎずおいしい、肌に良くないと知りつつもつい食べ過ぎてしまうからいけない。 - 何もかも捨てて - 2002年03月05日(火) 太陽のようにあなたが笑うたび 何もかも捨てていいと思ってた …………… - 銀座にて - 2002年03月03日(日) 銀座の花屋さんの品揃えはやはりどこか気取っていると思う。けれどそれも当然か、あまりに場所が良すぎるのだ。メゾンエルメスの隣、曇り硝子を透かして店内の階段を昇る人の足下が見える。友人が花束を作って貰っている待ち時間、はじからじっくりと切り花を眺めつつ、私はどうにも眠くてふらつきそうになる。もう1人の友人が笑いながら指差した極楽鳥花、「あれにすればいいのに」と彼女は笑う。確かにインパクトなら負けないだろう。数多手にするかわいらしい花束の内でも群を抜いて目を引くに違いない。この花、別名は何だっただろうと思って考える、けれど思い出せない、眠くて頭が回転しない。思い出せる時もある筈なのに。 「…ごめん、もうだめ、倒れそう…」 限界を訴えてその場を1人後にする。行きつけの美容院のビルを見つける、もう近々来なければと思いながら頭の中でスケジュール帳を開く。しばらくは難しそうだ。 - 春を灯らせ - 2002年03月01日(金) 唇に春を灯らせ笑む君と 指を絡める ひとときの温 ………… - 逡巡 - 2002年02月26日(火) 迷い月 今宵は君と離(か)れ行かん 道に向かいて独り闘え ***************** ****** *** ** * 「研究、一年、休もうかな…」 力無く呟く同期の声は僅かに掠れて語尾が苦しげに歪む。私は内心身構える、いけない、これは今から泣いてしまうかもしれない。何度考えても同じ所に帰ってくるの、と絞り出すように言う。小さく鼻をすすり、ごめんねと言いながら慌ててバッグからティッシュを取り出しているのを横目で見て、どうしようかと一瞬逡巡する。彼女の研究は煮詰まったまま数ヶ月進んでいない。努力は続けているけれど、半年前と殆ど変わらないところで停滞したままだ。壁にぶつかると対決せずに道をそらしてしまう癖、あなたはいつもそういう傾向があると指摘されても、本人にもどうしていいのかわからないのだろう。自覚があってもどうにもならない事なんていくらでもある。 「それは、逃げだと思う」 備品の注文用紙から顔を上げて、きっぱりと告げる。甘やかしてはいけない。本当なら今している仕事を中断して外へお茶でも飲みに行って、そこでゆっくり話を聞きたい、彼女もおそらくそれを望んでいるだろう。でもそうしてはいけない。ダメになるだけなのだ、私も彼女も。何度も色んな人から忠告されたし、私も芯からそう思う。彼女が無意識に他者に解答を強要する事、プレッシャーに弱く高い不安を抱えている事を、私はうまくかわさなければならない。問い掛けられた質問に明確な解答を返す事を意図的に避けなければ、操作されている事と変わらなくなる。 - ただここで - 2002年02月25日(月) ただここで 一緒に笑って欲しいだけ 些細な喜びを分かちたいだけ ************* ****** ** * * 辞表を出したの、と妹が歌うように言う。内容の重苦しさとは裏腹に声はあくまで軽やか、むしろ嬉しそうでさえあるのが皮肉だ。「1つ内定が出たら、辞職を上司に伝えようって決めてたの」 後に残る人の苦労を知りながら、さして気の毒とも思っていない様子が垣間見えて私は少し呆れる。悔し涙を流しつつ勤めた大企業を、彼女はこの春捨てる事に決めた。学生時代、若すぎる程に若くして得た資格の鮮烈さが妹の我が儘を後押ししている。採用に不利になる筈の様々な条件をそれが薙ぎ倒す、その効力をよく理解した上で彼女は剣をふるう。 - その閉塞に - 2002年02月24日(日) 彼のいない世界を歩く日を思う その閉塞に誰を呪えば ***************** ***** *** * 地元のカジュアルなフレンチ、そこそこ人気のあるお店と聞いていたのに私達の他にお客はたった一組。味はまあまあ、こざっぱりとした給仕の女性も感じがいい。きのこのポタージュには胡椒がきいていて、とてもおいしい。デザートの量が多く、食事を終えてみるとかなり苦しい。最近はすっかり大食しなくなっているから余計に辛く感じるのだ。無理にそうしているわけではないけれど、何だか自然に控えめになっている、おそらく身体のバイオリズムのせいだろう。ここ2・3週間程で随分痩せた。 春が近いし、そろそろ菜の花を使ったお料理でも作りたい。おひたしにして、おろしぽん酢でさっぱりと。 - 今は幸せと囁いてみる - 2002年02月23日(土) いたずらに 目尻をちかりとまたたかせ 今は幸せと囁いてみる …………… - これは病か - 2002年02月22日(金) 目の前で あなたを困らせ泣かせたい 涙を見たい これは病か ………… 困らせたい、泣かせたい、至近距離で赤く染まった目尻を見たい。それが声を聴きたいと望むことと同義だと伝えたら何と言うだろう。贋物の恋とは思わない、けれどもう胸を開いてあなたに見せることなどできない。それでも優しく髪を撫でて目を閉じる、私は今確信犯の顔をしている。 - リターン - 2002年02月21日(木) ターミナル駅構内の飲食店街、私がいつも1人で月曜の朝食を摂る喫茶店で、同僚が鞄を置き引きされた。勤務後に別の同僚と立ち寄った際、座席に鞄を置いたままカウンターで注文を済ませて帰ってきてみると、バッグが自分の分だけ無くなっていたらしい。財布や携帯、定期入れなど重要度の高いものはすべてポケットに入っていたのが不幸中の幸いだったものの、やはりショックは大きい。「あの店、しばらく行けない…行きたくない」 彼女は俯き気味に呟く。バッグは何故か飲食店街にある別の喫茶店で発見されて、手帳にはさまっていた保健証の電話番号を頼りに、店から忘れ物として連絡が来た。一緒に帰る途中、乗り換えの改札口で立ち止まる。「これから取りに寄るから、先に帰っていいよ」「すぐそこでしょう? ついて行きます」 入っていた物は何もなくなっておらず、諦めていた新しいカメラもそのまま入っている。不安からか彼女は何度も中を確認する。無理もない、最悪のケースを考えれば、この業界で永遠に仕事を失うだけでなく、特定の他者に恐ろしい迷惑をかけかねなかった。「自分のことなんかより、そっちが余程恐ろしいよ…」誰にも見られてはいけない手帳。悪用されれば社会的な問題になるほどの。 「……よかった、本当に」 流行の形、赤い革の洒落たバッグは全体的にくったりと疲れてしまったように見える。手放してからほんの数日なのにと彼女は呟き、溜息をついてホームへの階段を下る。 -
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