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いのち絶えゆく - 2002年09月10日(火) 曾祖母の いのち絶えゆくさま照らし 灯火は揺れる日々細々と ****************** **** ** * 多分、もうそんなに遠い先の事じゃないのだ。会う度に目に見えて衰えてゆく曾祖母の躰はどんどん縮んでゆくようで、私はそれに気付いて時折ぞっとする。「近い」 という事に直面して、やがて来るその日の事を考える。古めかしい紫の房の下がった襖の向こう、曾祖母の部屋には随分長いこと足を踏み入れていない。彼女は頑固に自宅で暮らす事を望んでいるけれど、病状と周囲の状況を考えたときにそれが即ち本人のためとは言えない。 - 朔夜たのしき - 2002年09月06日(金) 風ぬるく 見知ったどこかに似た街の アスファルト踏む朔夜たのしき ………… - 鱗が綿へと - 2002年09月05日(木) 我が肌の 鱗が綿へと姿変え 降りしきる世界真静かであれ ***************** ***** ** * 初めての名古屋。夜の繁華街はとても賑やか、街の感じがどこかに似ていると思っていると、友人が「新宿三丁目みたい」。名古屋コーチンの専門店で鶏肉のお刺身を頂いて、白レバーに感動する。ちっとも生臭くない、ふっくらとなめらかで、舌の上でとろけるよう。お肉の生食は割と好きなのだけれど、こんなに凄いと思ったのは初めてだ。 - 探偵未遂 - 2002年09月04日(水) お店を出て、駅の正面玄関につながる信号は赤。「ここから入ろうか」と地下通路への階段を全員で降りようとする時、「わたし、ちょっと寄り道して帰るので…」 と、さやちゃんが微妙に不自然な別れ方でササっといなくなってしまう。こんな時間に一体どこへ、と残りの面子は釈然としない面もちで顔を見合わせる。そこで突然、既に階段をいくつか降りていたゼンショー君が「そんなもん、追いかけるに決まってるだろう」 ときっぱり言い放つと、当然のようにきびすを返して後を尾け始めた。私はその確信犯的な口調がおかしくて、笑いながら隣に並ぶ。ゆう子さんと龍田君は、「え、え、いいんでしょうか、こんな事して…」 とおろおろしながらついてくる。 夜の街をひとりで進んでゆくさやちゃんのピンク色のカットソーをずんずん追いながら、更にこのかわいらしくてたちの悪い酔っぱらいは言うのだ。 「ばかじゃねえのかあいつ、改札で別れてからこっそり行けばいいものを、あんなとこで。尾けるに決まってるっつーの」 こんな事を言っておいて、あまりに堂々と尾行しすぎた為に、彼は割とすぐに気付かれた上にいとも簡単に捲かれてしまった。こんなダメな酔っぱらい探偵、面白くて目が離せない。 - きみと泣き - 2002年09月01日(日) きみと泣き 笑って過ごしたまばゆさを いつか思い出すだろう別地にて 泣いた日もあったそれでも最後には 笑ってた顔ばかり思い出す ……… - ずっと予期せずに - 2002年08月31日(土) この道を 振り返る日が来ることを ずっと予期せずにいたね君の隣 ************** **** ** * お偉方と、夕方から飲み会。私は一応幹事の席に座り、もの凄く久しぶりに接待モードのスイッチをONにして細々と立ち働く。終わった後、「いやあ、話をすれば打てば響くように返ってくるし、働きようも素晴らしい。銀座のホステスより立派だった」 と評される。「あら、私、ホステスさんになれるでしょうか」 「や、あれはもっとフェロモンがないとね」 「…ええ!?」 ヤラレタ、という表情で隣席の上司と顔を見合わせて笑う。褒められたようでいて実はこきおろされている気がする、ああ全くもう、いつもながらこんな調子。 - インナー・ノイズ - 2002年08月30日(金) あの日みた夢が始まる夏の暮れ インナー・ノイズの波を忘れて *********** **** *** * 日は落ちた。空は不純物を漉したような青と薄みどりをゆったりと滲ませている、この時間はなにもかもが潤んでゆくようだ。その中で金星だけがただひとつ、鋭く研がれた刃の光。水の中、息を吐く事を忘れて水を掻く瞬間の、しんと澄んだ世界を思う。同じようにこの夕暮れを泳ぎたい、あまたの懸念事項が織りなす雑多なノイズも意味をなさなくなるくらいに、この胸のときめくような静謐の中を。夏の終わりの、美しい夜が始まる。 - 擦れ違い - 2002年08月28日(水) 指先ですれ違うような日々だった それでも決して不幸ではなく ………… - 月照の - 2002年08月27日(火) 頬濡らし鉛抱いた夜 月照の底にきざみこむ深き爪痕 ………… - 焦燥の - 2002年08月25日(日) 焦燥の夏をようやく泳ぎきり 彼岸佇む君へ微笑む *********** *** ** * 午後の電話、ナンバーディスプレイは便利だ、しょっちゅう電話をくれる友人から。私は名も名乗らずに明るく電話に出る。すると向こう側の空気はとても重い、離職を決めた事を低い声で告げられて、ああ、流石の彼女でもやはり難しかったか、と思う。私は声から笑みを消し、ゆっくりと言う。「…そう、とうとう、決めたんだね」 夜には久々に電話をくれた友人から旅行のお誘い、彼女とは毎年どこかしら旅行している。来月遅い夏休みが取れるから、あなたと旅行に行こうかなと思って、とのんびり言う。「どこらへんに?」「トロッコ電車に乗ってみたいな、って」「…あ、乗ってみたい!」 私は電話しながらいそいそとネットで検索する。美しい渓谷と温泉。魅力的だ。…金沢に一泊して兼六園を見て、その翌日に富山に向かって、交通手段とルートはこういう感じで、と彼女は次々話す。彼女の中ではすっかり細々と準備してあるのが面白くて、私はおかしくなってしまう。本人に自覚があるのかどうかわからないけれど、彼女の誘い方はいつもどこか確信犯的で素敵だと思う。決して強引じゃないのに、気が付いたらその気になってしまうのはどうしてなんだろう。 -
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