夕暮塔...夕暮

 

 

わがままで - 2002年09月26日(木)

わがままで自分勝手なその頬を 撫ぜればふわりと花の風吹く



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たとえばアスファルトの上、銀杏の木の下、開け放した窓からも。町中のあちらこちらを金木犀の風が愛撫する。


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全力で - 2002年09月25日(水)

全力で駆けてみようか今日からは誰にも見せたことのない速度で



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十二夜 - 2002年09月19日(木)

紺碧を 溶きてひろげし十二夜の 輝ける闇を胸に吸い込む


紺碧を 溶きてひろげし十二夜の 静かきらめく闇を吸い込む



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思い切り吸い込んでしまえ その肺の内に凛々と満ちる十二夜





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- 2002年09月18日(水)

苦しいニュース、穏やかに暮らしていた人間の音階を突然に掻き乱す、あのどす黒い災難の無惨さに圧倒される。やりきれない。単なる悲しみではない、理不尽という言葉を軽々と踏み躙る、憎むべき何かの実態が見えない事が恐ろしくて憤らずにいられない。彼らは今でさえ本当のことを言っているのか疑わしいと思う、辻褄の合わない発表に不自然な死亡者数、10年前に亡くなったなんて真っ赤な嘘かもしれないのだ。
連れて行かれた少女は両親の中では13歳の姿のままなのに、15の娘がいるという。娘を捜し、血を吐くような月日を過ごしてきたひと達の気持ちを考えてみる。私なら喜べるだろうか? 望んでした結婚だったのかどうかもわからない。おそらくその子は日本の言葉も知らないだろう、少女が泣いて帰りたがった筈のこの国の、美しい響きさえ。


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雨音は - 2002年09月17日(火)

午後六時 雨音は秋の気配して 頭の芯まで沁みてゆくよう



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ひとしずく - 2002年09月15日(日)

人のために流す涙がひとしずく まだあったのか私の内にも



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いつの朝に - 2002年09月14日(土)

いつの朝に きみは夜明けを知るだろう かたくなで暗い輪の中にいて



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目を醒ましてと告げたなら、それはきっと不可解で残酷な言葉になる。


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雨を待つ - 2002年09月13日(金)

雨を待つ日暮れの風の涼しさよ 非常扉から一歩でうたかたへ



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狐につままれる - 2002年09月12日(木)

「これ、持ってって。多分干物だろう、おいしいよ」
学会のドンはこともなげに患者さんからの差し入れの包みを指差すと、十数分待たせたままのハイヤーに乗る為に大急ぎで去って行った。丸いケーキでも入っているのかと思うような厚みのある箱が1つと、菓子折くらいの薄さの箱が1つ、いずれも発泡スチロール製。私と越野さんとで大きな方をおそるおそる開けると、おがくずに埋もれた伊勢海老、少なくとも3匹はいるだろう。一匹のヒゲが緩慢に動くのを認めて、私も彼女も、控え室にいたナースも驚く。「わ、生きてる…!」
どうしようかと困った挙げ句、越野さんが伊勢海老を、私はもうひとつの箱の金目鯛の味噌漬けを持ち帰ることになった。彼女は恐縮していたけれど、ひとり暮らしの私があんな大層なものを貰うより、彼女が家族とあの大きな海老を囲む食卓の方がずっと楽しそうだと思う。
「ねえ、お家の人に電話しておいた方がいいんじゃない?」
「あ、そうか…そうだよね」
帰り道、彼女は携帯を取り出して自宅にダイヤルする。
「海老を頂いたんだけど、すごく大きいやつ…うん、そう、だから夕御飯はね……」
大きな海老。果たしてその表現で正確に伝わるだろうか、と一瞬心配になるけれど、とりあえず口は挟まないでおく。
「どんな風にして食べたか、教えてね」
「うん! …でもほんと、どうなるんだろ、ねえ?」
「ね」
2人で笑いながら別れる、ああ何だか狐につままれたような日だった、と言いながら。



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まぼろしの - 2002年09月11日(水)

まぼろしのようなひとだと今にして思うあなたは本当にいた?



飯田橋並んで歩いた夜のこと 夢か現かわからなくなる




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