夕暮塔...夕暮

 

 

きみに夜風を - 2002年10月10日(木)

薄紅の花揺らすような雲の下 ゆこう悠然と きみに夜風を




****************** *****  ***     *





もう、だめだ。
時刻はとうに深夜をまわって、明け方が近い。知らず大きな溜め息をつき、その大仰さに自分で驚いてしまった。目が霞む、デスクから立ち上がると足下がふらつく。ぐらぐらする視界を閉ざすために寝室へ向かうけれど、わかっている、この状態ではどうせ眠れないのだ。それでもベッドに身体を横たえて瞼をおろすと、わざとらしい程自虐的な言葉がいくつか脳裏をかすめた。いっその事その暗い渦に身を任せてしまおうかとも思うのに、結局それが実現しない事を、多分わたしが一番よく知っている。


そんな思いをした日なのに、夕暮れ時には何事もなかったかのように悠々と外に出る。美しい秋の空が変化するころ、虹色の花弁を透かしたような雲、風がひんやりと襟足を撫でる。買ったばかりのグレーのパンツの中で、ウエストが泳いでいるのがわかる。ああ、少し痩せたのだ。デパートで差し入れを買って、先程約束を取り付けたばかりの知人のもとへ向かう。

私はきっとしぶとくて強い、ちょっと可愛げがないくらいに。



-

たいせつで - 2002年10月09日(水)

たいせつで 手加減なんてできなくて いつかほどけるとわかっていたのに



…………




あざやかな魔法にかかったみたいだと笑う日がいずれ訪れるでしょう


-

面倒なことに - 2002年10月07日(月)

深夜近く、電話の向こうでまた電話が鳴り、メール受信を知らせる音が響く。
面倒なことになった、とうっすら思う。名誉と言ってしまえば全くその通りだし、とんでもないチャンスの到来なのかもしれないのだけれど。しかし。

遠回しに遠回しに、ずっと迂回してきた懸念事項を、一瞬で喉元まで突きつけられる予感。鋭い短刀。それは多分明日だ。どうして突然こんな事に。素直に喜ぶ気になんて到底なれない。
わたしはこの大きな波に乗ってみるべきなのだろうか? 


-

きしむ歯車 - 2002年10月06日(日)

君を見ているとかすかな音がする 耐えかねてぎりり きしむ歯車



…………







-

束の間の - 2002年10月04日(金)

束の間の やわらかき秋のぬるま湯に 浸かり木犀に満ちるまちかど



…………






-

傷なんか - 2002年10月03日(木)

傷なんか 残さなくても特別なひとになれると 知らなかったから




***************** ***   **     *




父に用事があって会社に電話すると、ずっと勤めて下さっている女性社員さんの、明るくて良く通る声が耳に飛び込んで来た。美しいかつ舌が素直に羨ましい、わたしの営業用の声もそう耳ざわりは悪くはないと思うのだけれど、少し舌足らずなのだけはどうしようもない。
父の所在を尋ねると、困ったような笑いを含んだような、少し複雑な声になる。

「えー……今日は、朝から山に行かれました」 
「山に?」
「…長い棒を持って、山に芝刈りに……。長ーい棒を持って。」
「……………」

…………ゴルフか。
強調された部分と、芝という言葉でようやくピンときた。それなら携帯にかけても切ってあるかもしれない。夜はどうせ飲みに行くんだろうし、今日連絡を取るのは諦めた方が良さそうだ。もういいや……ちょっと脱力。


-

茜の帯 - 2002年10月02日(水)

夕映えに 高く茜の帯浮かび 秋の果てへと遠ざかりゆく



……………







-

せめてひとつ - 2002年10月01日(火)

せめてひとつ 思ふところを言葉にや変えむとて嵐待つ厳かさ



この胸を ことばに託せば頼りなく 歯噛みして細き糸紡ぐよう




…………








-

薬指が - 2002年09月30日(月)

薬指が きみを忘れた日の事を 眩しく風を受け思うときまで



薬指は もう長い間ひたむきに あなたを忘れたいと言ってた




………




風の彼方 午後の光に稲穂金色 今日からまさしくこの指は自由






-

金沢へ - 2002年09月28日(土)

久々の金沢。8時56分発の新幹線で越後湯沢、そこから特急に乗り換える。硝子の向こうは生憎の雨で、「ああ、さっき少し止んでたのに…」と友人が車内で溜め息をつく。「でも、空は明るいし」 と気休めでなく私が声をかけると、雨雲を見上げていた彼女が振り向いて、ちょっとほっとした顔になる。
「それにわたしたち、割と晴れ女だと思わない?」
「…そうだね、そうだよね」
思い出したように彼女が確信を持って頷くので、「ね、」と私は笑った。

彼女との旅行は何度目だろう。学生の時も、卒業してからも、わたしたちは淡々と旅に出た。高原、外国、テーマパーク、古都、温泉。

近頃曖昧に考える、言葉で確認してみた事はないけれど、わたしと彼女には多分外からは見えない共通点があって、それは人の特徴をあらわす時にはもの凄く大切な部分かもしれない。 …だから、わたしたちは、隣にいるのかな。 ぼんやりとそんな風に思っている事を、いつか彼女に伝える日が来るのだろうか。機会があれば尋ねてみるのも悪くない、きっと楽しい、答えのイエスノーには関わらず。


-




My追加

 

 

 

 

INDEX
←過去  未来→

Mail 日録写真