君の胎 - 2002年10月25日(金) あたたかき命眠りたる君の胎(うち) 風光るホーム 頬はまばゆく 久々に会えば「5キロは増えたよ」と誇らしげに笑む頬のまばゆさ ………… - 愁雨 - 2002年10月24日(木) 部屋の隅でやや所在なさげに座っている少女に、長椅子の隣をはたいてここへおいでと合図すると、ショートカットの彼女がぴょんと跳ねるようにして私の隣に座る。可愛い、と心底思う。見上げてくる濡れたようにきれいな瞳、傷つきやすくてコントロールの弱いこの子を、どうしたら楽にしてあげられるんだろう。霧雨が降っている。校庭の色づいた銀杏を見下ろせば耳に響く、不揃いなリコーダーの音色。 **************** *** * 煙草の匂いのする夕方。 「…前にも、言ったけど。あんたの仕事は、残虐非道で冷酷じゃないとできないよ」 「わたしがそうだって、言いたい?」 からかい気味に返すと、彼は曖昧に否定する。 でもそうかもしれない、本当に、そうかもしれないのだ。 - 元気でと - 2002年10月21日(月) 元気でと簡単に告げるこの口が憎い どうしても お願い行かないで しんしんと別離の地平に降る雪を 見ずに発つきみよ晴れやかに咲け ****************** **** ** * …困ったな。ああ何度目だろう。そういう時期なのだ、仕方ない。それでも私の杞憂なんて、多分たいしたことないくらいの代物なのだ。慰めじゃなくて、事実を照らし合わせて見れば一目瞭然だと思う。…けれど、なんだか、やっぱり疲れた。 - もうじきだね - 2002年10月20日(日) 「あなたと、イタリアに行きたいな」 友人が満面の笑みで言う。その中に真剣さを感じ取って、私はとても嬉しいと思いながら少しだけ辛くなる。もっと時間のあった時に、本当に一緒に行けたら良かったのに。私と彼女は本当に仲良しだけれど、そういえば旅行の経験は少ない。お腹がよじれると真剣に心配する位に一緒に笑って、時にしゅんとして2人でへこんだ。彼女は好きになった男の人にあまり大切にされなくて、私はそれが辛かった。こういう人が軽んじられるという現実をどこかで理解しながら、それでも憤らずにいられなかった。それは多分、今も変わらない。 彼女は来月アメリカに発つ。心が幼くてきれいな人。無邪気という言葉。大粒の涙を思い出す、胸を締め付けられるような思い出、私はあの後水屋で1人で泣いた。 もうじき、このひとと会えなくなる。 - 雨が強く - 2002年10月19日(土) 雨が強くつめたくこの夜を閉ざしたら きみに教えよう待ち人の名を ************ ***** *** * 半地下の創作料理屋さん、このお店に来るのは久しぶり。相変わらずホストみたいな対応の、やたらと気の付く店員さんが2人。あまり忙しく気を遣われると居心地悪くなってしまうといういい例かもしれない。食べ物はおいしいのだけれど、友人の1人は本気でこのお店が苦手らしい。多分誘っても来ないんだろうなと思う。 「…あのね、聞きたい事があるんだけど」 「進展ないよ」 その間わずかコンマ数秒。あまりの即答ぶりに、同席していた女の子が驚いている。「きっと聞かれるだろうなと思ってた」 と彼女は笑い、事故ったりとかもあったし、全然時間なくて、と続けた。 - ほどく代わりに - 2002年10月18日(金) 味気ない言葉を繋いで別れよう そっと君の指ほどく代わりに 味気ない言葉を鎖に別れよう きみの指ほどく勇気の代わりに ******************* **** ** * 歪んでしまった眼鏡を修理に出した帰り、デパートに寄ってネックレスをクリーニングに出す。「15分程で終わりますので…」と言われて驚き、そんなにすぐに終わるんですか? と尋ねると、色白の店員さんがにっこり笑う。待ち時間に他のアクセサリーコーナーでイアリングを覗いてみる。MISTYで見つけたきれいな薄いモーブ色の石、そのままではほとんど色が見えないのに、人の肌に重ねると途端に発色が濃くなるのが不思議で楽しい。心底素敵だなと思うけれど、衝動買いはやめておこう。無いと困るというわけでもないし。 - 傘を持たず - 2002年10月16日(水) 傘を持たず歩くことにも馴れました 仰ぐビルの窓 半月が満ちる 硝子ごしに夜を迎えて風の中 月が空渡る下を歩いて ********************* ****** ** * 降水量の多い雪国で生まれ育ったから、高校時代までは、季節を問わず傘を持ち歩くのが常だった。玄関を出て車に乗る前の僅かな時間、今日は雨が降るかなと朝の空を見上げた。淡い水色に美しい雲の模様、昨日と同じだなんて思った事は一度もなかった。そうやって毎朝勘で天気を読む、あの頃私の天気予報はたいてい当たらなかったけれど、また外れてしまったと友人と笑い合って済ませた。レトロな教室を出て1人で放課後の橋の上から見た鮮明な夕焼け、あんな胸の苦しくなるような光景を、わたしはあと何度見られるんだろう。あの時の感性が死んでしまったとは思わない、だけどガラスごしに夜を迎える日々が流れて、次第にそれに満足するようになっている。 - 壊れそうに - 2002年10月15日(火) 壊れそうに 穏やかな日々が過ぎてゆく 夕雲も風も音を立てずに こんなふうにきれいでさみしい夕暮れをひとりならしらないままでいたかな …………… - 月夜 - 2002年10月12日(土) 思いもよらず褒め言葉を尽くされて驚く。嫌味でない言い方で褒められれば素直に嬉しい、すごい勢いで自尊心が向上するのがわかる。私は単純構造だ。でもどこか一枚フィルタがかかっているような気がするのはどうしてなんだろう。次の約束をしながらも、なぜか心躍らない。 - 火の中の国 - 2002年10月11日(金) 祖母の左胸に耳を寄せ涙して あらゆる事象の黄昏を見ぬ すこやかに吾を育みし祖母の生 絶えてゆくまでの火の中の国 ………… -
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