はつゆきへ - 2002年11月09日(土) はつゆきへカウントダウンをしましょうか 神様の帰る月の夜道で ………… - 怯えても - 2002年11月06日(水) 「…ちょっと、二人きりになれる所で、話を」 彼女の思いがけなく真剣な様子にどきっとして、頭の隅でほんの数分前に聞いたばかりの科白を思い出す。 …ドキッとする瞬間がある筈なんだ。ドキッがすべてだ、笑いまじりに上司が言って、席上の全員が笑み崩れた、だけどおそらく誰ひとりとして冗談だなんて思っていなかっただろう。 彼女の襟元、性格そのままに丁寧に巻かれている水色のスカーフを見つめて、私は悄然と言葉を探した。この穏やかで頼りになる先輩と、こんなに早く別れる事になるなんて思ってもみなかった。私が彼女より早くここを去る事はあっても、その逆があるなんて想像の範囲外だった。出世する人だろうと、前から思ってはいたのだ。だけどこんな時期に、こんなに急にその時が来るなんて。誤算だった。本当に。 *************** *** ** * 怯えても 震えてもひとみ開けたまま 雷鳴轟く先を見すえよ 胸を打つその瞬間がすべてだと うつくしき鍵を彼は差し出す - 眼福 - 2002年11月05日(火) FDのケースを買いに吉祥寺ロフトへ向かう、FDドライブなんて今時流行らないんだろうとは思うけど、遅れているという負い目は不思議と全然ない。多分私はわりとアナログっぽいものが好きなのだ、着物に茶華道、短歌と郷愁、イアリング、windows95、携帯電話もこのパソコンも今のをずっと使えたらなと思う、でも使い込んだMacの中身が飛んでしまった友人の日記を思い出してぞっとする。今クラッシュされたら、もう首を吊るしかない。 さくら色のストールをマフラー代わりに自転車に乗る。なめらかな織りの感触、厚手のカシミアは去年使っていたパシュミナとは全然違っていて、一枚あるだけでもの凄く暖かい。シルク混の中厚手は使い勝手は良かったけれど、防寒という意味ではこれに勝るわけがないと思う。 お気に入りの家具屋さんに寄って、窓際で見つけた巨大なソファに座ってみる。硬めに見えたのに思ったよりずっと柔らかく身体が沈んで、大きさも、包容力のある座り心地も申し分ない。アメリカ製。2Fで気に入ったソファはカナダのだった。やっぱり私の身体だと、向こうのがっしりして広い造りが楽なのかな。今のと比べたらずっと高価だけど、来年なら買えない値段じゃない。これくらいゆったりしてたら、本当に文句ないのに。 フロストグラスのテーブルの上にはうっとりする位繊細なクリスマスの装飾、少し早いけれどこういうのは嫌いじゃない、よくできていればいる程好きだと思う。あまり安っぽいと呆れる事もあるけれど、きらきらするものは大概好きだ。晴れた夜の中なら、尚更。 - 時を静めて - 2002年11月04日(月) 月は深く身をひそめ暗き二十九夜 きみの声もなく時を静めて ************** **** ** * 鳴らない電話もいとおしい。今日は誰とも口をきかないで過ごす日かな、などとおぼろげに思っていると、なぜだか知らないひとに話しかけられたりする。夕暮れ時、郵便局の警備の男性がにこにこして言う、「今から、あちらの方に行かれますか?」 「…いえ、この道をまっすぐ、」 そうですか、いやあ残念。今あそこのビルの横にこう、すらっと見えますでしょう、あの影が富士山なんです。あっちのバス停からなら、全体がきれいに見えるから。…… ろうたけた西日の中にくっきりと灰鼠色のなだらかな影。ああ、そうだったんだ。富士山の姿ならマンションの階段からでも見える、だけど、あのバス停から見えるなんて知らなかった。もう何年もこの街に住んで、晴れた日に幾度もバスを待ったのに。 - 明日の約束も - 2002年11月03日(日) 山茶花の開く下明日の約束も 交わせないまま 目線邂逅 ………… つまらない会話なら、いくらでも重ねられるのにね。一緒に笑うだけでいいなら簡単に手に入る、人並みの社交性さえあれば、それこそ誰とでも。だけど私は欲しくない、ほんとうに、それだけならいらない。だから約束はしない。2人では会わない。そんな事しかできなかったねと、あなたにいつか言えるといいのに。 - 記憶鮮烈 - 2002年11月02日(土) 朝ぼんやり起床して、水だけ飲んで二度寝した。やらなきゃいけない作業がたまっていて、ほぼ1日パソコンの前で過ごす。去年の日記を読んでみる。今とあまり変わらない、ささやかに満ち足りた毎日が綴られている。けれど驚くトピックもある、あの号泣したTVドラマを見たのは、もう一年も前の事になるのか、つい最近のことみたいに思っていたのに。今も鮮烈に覚えてる、主演は室井滋、痛いくらいに切ないエピソード、裏切られる硝子越しの必死の懇願、”助けて下さい、お父さん”。心に残るとか、胸を打つというのは、こういう事なんだ。思い出すだけで視界が滲むのに、1年経とうとしている。 - 微熱 - 2002年10月31日(木) 微熱のまま外に出れば、通い慣れた道は初めて見るような表情に変わる。鮮やかで虚ろな世界。夕食を済ませてパソコンに向かってみたけれど、結局頭がうまく働かないから、そのままぼんやりと爪先を見つめる。いたずら心を起こして、マニキュアの詰まった引き出しを開けて細かいラメの瓶を取り出す。半透明のパールモーヴの塗られた爪は短くしたばかり、その先に細く細くラメを乗せてトップコートをかけてみた。派手でなく基本通りでもなく上手にできたと思う、でもどこかおかしい感じ。ふっと口角を上げる。デスクライトの下、持ち上げた指先は夢の中みたいにきらきらしている、どこもかしこもうまくいってない今日の私の身体の中でそこだけが完璧な気がして。 ****************** ****** ** * 熱の中 諍う夢見てまだここに 痛手はありぬと胸に手をあて - 今は隣に - 2002年10月29日(火) いつかきみが晴れやかに真昼わたる日を希(こいねが)いながら今は隣に ………… あの子の歩く、未来を考える。 明るい道であるようにと思う。私の知らない街、日の当たる見知らぬ道を、泰然と歩いてほしい。彼は多分忘れてしまうだろう、ママと通ったレンガの旧い建物と銀杏並木、背の高いお姉さん、水曜午後二時の約束。 - 不調 - 2002年10月28日(月) 全身が痺れたようにだるい。目眩に似た眠気、発熱しているせいもあって、頭がぐらぐらする。呂律もきちんとまわっていない気がする。こんなに眠いのはおかしい、確かに風邪薬は飲んだけれど、それにしてもこんな風になる理由がない。…朝飲んだ薬を思い出してみる。顆粒の解熱剤と咳止めは前回処方された袋に入っていたままだから間違いない。だけど冷凍庫から出した小さな錠剤、風邪薬と思って飲んだけれど、そういえばあれは何だっただろうか。 「…もしかして、風邪薬と間違えて、睡眠薬飲んだかな」 「まさか、と、言いたいけど。あなたならやりそう」 「やりそうですね…」 デスクに突っ伏したまま、目を閉じて真剣に考える。随分前に面白半分に貰った睡眠薬は、全然手を着けないまま引き出しにしまってある筈だ。冷凍庫に入れた覚えはない。しかし、そうでもなければこの眠気はなんなのだろう。 ********* **** * いつも少し憂鬱なコーヒーブレイク。今日は濃いコーヒーは飲む気になれないけれど、席を外すわけにはいかないのでとりあえず同席する。 「あなたたち具合悪そうだねえ…生理?」 相変わらずストレート。脱力して、思わずぐったりと否定してしまう。…わたしは、風邪です。 「私は生理です」 すかさず同僚が言う、職業柄、抵抗は全くないのだろう。 女の人は大変だよねえ、月に5日……2・3日もそんな日があって、と両手の指先をからめて彼はしみじみ言うが、それにしたって仕事の振り方には容赦がない。それでも解っているだけましな方なのだろうか。 - 霞む真夜中 - 2002年10月27日(日) きみを乗せた電車を笑顔で見送った 下弦の月も霞む真夜中 ………… -
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