夕暮塔...夕暮

 

 

かの人に - 2003年01月20日(月)

かの人に 捧げしことばの散り散りと 降りしきる中に息をひそめた


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箱の中 - 2003年01月17日(金)

落としたら からんとむごたらしい音を 響かせる君になってしまった



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もう一度触れたくて箱を抱くけれど からからと惨い音が鳴るだけ




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乙女椿 - 2003年01月15日(水)

木の隣に「春」の字をそっと置いてみる 乙女椿は淡き面影



木に春と書けば笑みこぼれるように花開く君の面影を見る









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実家の庭でこぼれる程咲いていた薄い桃色の椿の花、あれが乙女椿と呼ばれる品種だと知ったのは割と最近のことで、年々花の数が減っている事を気にかけて調べてみて初めてわかったのだった。あの木いっぱいに花が咲いていた頃、うちには沢山兎がいた。乙女椿の木の並びに兎小屋があって、兎たちは勝手に土を掘って地下に巣を作り、時々庭木の根をかじっては祖父を困らせたけれど、鷹揚な気質で孫に甘い人だから、大したお咎めも処置もないままだった。もう十数年も前の話。その後悲しい事件があって、兎は一旦我が家から全部いなくなった。私はそんなに幼くなかった筈なのに、あの時の事を思い出そうとすると記憶が曖昧になる。人間は、こうやって、つらい事を封じ込めるようにできているのか。

もう二度と飼うこともないと思っていたら、数年前妹が突然兎を買ってきて驚かされた。「とても安かったの」と妹は笑ったけれど、そんな値段とは思えないくらい可愛い子で、里帰りする楽しみのひとつになった。病気になったと聞いた時、心配はしたけれど、まさかこんなに早く死んでしまうなんて思わなかった。リビングの丸い影、ゆったりと伸びた姿が懐かしい、人懐こい子ではなかったけれど、とても好きだった。




やわらかで長き耳持つきみの背を撫ぜた陽だまりの丸い残影


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涙する - 2003年01月14日(火)

彼女の化粧っ気のない頬に涙が次々とこぼれ落ちるのを見下ろして、言葉もなく瞬いた。ああ、もう、どうしてこんなことに。よりによって今日は2日目、一睡もしていない上に、ストレスフルな出来事がいくつも続いてさすがに限界を超えている。私は他の多くの女性達と比較すれば月の巡りに振り回されずにすむ方だけれど、数日間くらいは何かを根こそぎ持って行かれたように、どこか違う国にいるように眠たくて仕方がなくなってしまう。ごめんね、だめだ、タイミングが悪すぎる。たまらなくもどかしい、泣いてばかりで大人げない彼女にも、こんな時に雲の中にいる自分にも。そっとティッシュの箱を差し出すのが精一杯だった。



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涙する 幼いあなたに歯痒さを覚えそれでも手を解けずに


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変身できるかな - 2003年01月12日(日)

「ねえ、いつ、変身するの?」

大きな目をぱっちり見開いて尋ねてくる彼女は、どうやら本気で興味津々の様子だ。「いつかなあ」と笑って返せば、見たいなー、どんな風になるんだろうな、と声を低くして考えこむように首をひねっている。
どんな風になると思うの?
試しに聞いてみる、このたまらなくユニークな人からなら、きっと面白い答えが返ってくると思ったから。
「わかんない、でも凄そう…とにかく凄そうなの。まず笑顔が消えるんだと思うんだよね、きっと」

ああ、それはそうかもしれない。伝えると、彼女は真剣そのものの表情で頷いた。

それにしても、変身って。
どうしてそんな人だと思われているんだろう。普段の私は、そんなにゆるいかな。人からの評価やイメージは不思議だ、思春期の頃のようにもどかしいとは思わなくなったけれど、今でもコントロールできない所が沢山ある。

暫くの後、いい例えを思いついたと彼女が言う。
「スーパーマリオの、スターをゲットした状態みたいなのを想像してるんだけど!」
わあ懐かしいね、それって、無敵ってことかな。
ふたりで背を丸めて子供みたいに笑った。だけどいくらなんでもそんな風になるのは難しそうだと思う、もうとっくに人間技じゃないし。ああでもなれるものなら、今だけ、少しだけ、そんな風になってみたい。


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君の背骨に - 2003年01月11日(土)

あたたかな君の背骨に片耳を押しつけて冬の頂を越す




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瞬けば 冬は雪崩れて水の底 抱きしめた君の背に春の熱


瞬けば 冬の雪崩れる音がする 抱きしめた君の背に眠る春





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里雪 - 2003年01月10日(金)

しんしんと落ちて地に沁む里雪のように消えたい いつか いつかは



しんしんと落ちて地に沁む里雪よ いつかあなたのように消えたい




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大島椿のシャンプーを買った。いつも使う薬局やドラッグストアには置いていなくて、どこで買ったものかと思っていたら、入った事のない小さな調剤薬局の棚に並んでいるのを硝子越しに見つけた。オーナーの奥さんだろうか、やや年かさの優しげな女性が「皆さん、伺っていると、使用量が多いみたいなので…少な目に使って下さいね」と丁寧に説明して下さる。早速今日から使ってみよう。どんな風だろう。


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逃げ出せと - 2003年01月08日(水)

逃げ出せと囁く魔物はむらさきに迫る夕闇の声をしている



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優しい舟 - 2003年01月01日(水)

短い間、おだやかな舟に乗っていたようだった。リビングの暖かい床に敷いた布団の上でふと目覚めたら、ソファの上で弟が体を伸ばし、畳の上で父が座布団に頭をのせて、その隣の布団では妹がぽかんと口を開けたまま、それぞれにぐっすり眠っている。父に毛布をかけている所で電話が鳴って、慌てて取ると元旦登山に出掛けていた母の声が明るく耳に飛び込んできた。みんな、寝ちゃったよ。私は少しだけ言葉尻をあげてささやく、窓の外は明るい、星いっぱいの朔夜の次の午後、晴れ渡ってうつくしい元旦。



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はじめの日 午睡の舟には安らかに温き平和の魔法かかりて


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不思議と辛くない - 2002年12月28日(土)

これで、今週4度目の徹夜。年末に帰省する為に、ここのところ必死で調整してきた。こんな風にしていつまで走れるだろうと思いつつ、なんだか不思議と辛くないのだ。肌の調子だってすごくいい。私は少し自虐趣味だろうか。
けれどこれを続けたらどんどん脳細胞が死んでいく、それはいやだ、音もなく自覚症状もなく、少しずつ内側から崩れていく事には得体の知れない怖ろしさがつきまとう。もうやめよう、こういうやり方を楽しいと思ってしまうのは、間違いだと悟らなければ。


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