オトナの恋愛考
INDEX|past|will
私たちはほぼひと月に一度、週末にどこかの宿で一緒に過ごす。
それはリゾートホテルがほとんどだけれど 家族連れや若い人達が泊まるホテルは結構気を遣う。
さりげなく長年連れ添った夫婦のように振る舞ったりするから 宿のスタッフも「旦那さま」「奥さま」と呼んでくれるしそれが自然。 しかしサービス業のプロの目は誤魔化せないだろうし なんとなくやはり私たちに纏まりつく空気というかそんなものが 正当なカップルにはない独特のオーラを感じさせていると思う。
そんな風に気を遣ったり楽しんだりするのも良いが 今回は誰にも邪魔されず干渉もされる必要のない湖畔の貸別荘で、 私たちはほとんどの時間を触れ合って過ごした。
食事の時間以外は一糸まとわぬ姿で肌をふれあい重ね合っていた。 お互いの肉体が邪魔になるほど溶け合って時間が過ぎた。
ひろは珍しく私の身体中に自分の存在を記した。 「お願いだから見えない場所だけにしてね」とささやいたはずだった。 太ももの内側やお尻のあちらこちらに真紅の花びらが散っていた。 見えない場所だけと言ったはずだったが、鎖骨のすぐ上の首すじにもひとつ その花びらは強く残っていた。
「俺だけのうさぎだから」と所構わずマーキングされた。 嬉しい反面困ったひろだ。私は誰のものにもならないし誰かの所有物でもない。
優しく時が流れた一昼夜のうちに、私の身体の隅々に時間をかけて ひろは自分の痕跡を限りなく残すことに専念した。 身体の柔らかいたくさんの部分が悲鳴をあげるほどその行為は続いた。 官能の嵐の中で私は不覚にも涙を流し、 心配そうにそれを舐めたり指先に拭うひろに聞かれた。 「どうしたの?」 どうもしない。私より20Kg以上重い彼の身体は小柄な私を全身で包み 「俺をどかしてごらん。ほらもし俺が今腹上死したら逃れられないよ」 なんてふざけて言うから悲しくなっただけ。 「いや。今ひろが死んだら私もこのままあなたの身体の下にずっといる」
大事なひとを失うことはこの世の中で一番の悲劇だ。 もし彼が私の身体を抱きしめたまま事切れたなら 私もそのまま息が止まるまで一緒にいるだろう。 そんなことを官能の狭間の意識朦朧の中で想ったら なぜか涙が出て困ってしまった。あの時はもうこのまま死んでも良いと思った。
今こうして元の日常に戻るとそれは儚い幻想だと自覚できる。 湖畔の雨には、時間の止まった幻を見せる魔法がある。
2015 覚書
2月 ローズホテル 横浜 3月 ニューグランドホテル 横浜 4月 きらの里 伊豆高原 7月 ホテル伊豆急 下田 8月 湘南クリスタルホテル 9月 コルテラルゴ伊豆高原 10月 ロイヤルハイランド伊豆高原
|