Rollin' Age

2004年11月14日(日)
 実体の無い、バブルのような

 この7ヶ月で不相応としか思えないほどの給料をもらった。それだけの額に値する働きをしているか、心もとない。それなのに預金の残高は15万。残りは、どこに消えたのか。電気ガス水道電話家賃新聞代を払っても、なお余りあるはずなのに、消えうせている。

 知り合いが仕事を辞めた。「ティッシュ配りなんて、大卒の仕事じゃねぇ」「あんたは好きな仕事に就けて、将来も安泰で、いいよな」だって。

 まぁ、彼の言いたいことは分かる。ぶっちゃけて言うと、ほんとにぶっちゃけて言うと、「それなりに」名の通った会社に入りたかったし、「それなりに」高収入で安定した生活を望んだし、かつ「それなりに」満足できる仕事に就きたかった。当面、それらをすべてかなえている。数あった選択肢の中で最も高いレベルの「それなりに」に、運よく落ち着いている現在。

 夢とか理想とか志とか、そういう建前は建前であります、ありますとも。そういう美しい話は美しいままで、だけど、金とか名誉とか保身とかプライドとか面子とか、そういう欲でも動いているもんでしょ。人間だもの。違う?

 何人かに、「お前は将来不安無くていいよな」と言われたこともある。確かにその通りだ。入社した際、「うちは、食うに困らない程度には給料出すから、まぁ頑張ってくれ、はっはっは」などとエライ人が語っていた。なんなんだこの傲慢な世界は。同期には、プラズマテレビを置き照明に凝った部屋で夜を楽しむ奴もいる。「なんとなく」アイポッド買っちゃった奴もいる。俺は俺で、一食一万円の料理屋から「また来て下さいね」というメールが届いたりする。狂ってる。みんな入社一年目の新人。どこかがおかしいと思う。

 親父は、俺がまだ学生やってた頃の歳にはとっくに働いてた。家は貧乏だった。大学へなぞ行けるはずもなかった。初任給は15000円。その半分を家賃に取られ、スーツを買う金も無く、夏までは仕方なく学生服で通した。働いて働いて、定年を前にして、今は年収1000万は超えている。

 学歴社会をテーマに卒論を書いたとき、資料を読み漁っていると「大学受験、就職活動に臨む子供は、親よりもワンランク上を目指そうとする」という分析があった。まさにその言葉通り、俺は父のあとを駆け足で追って、「それなり」のところに落ち着くだろう、このまま順当にいくのならば。

 スタートラインからして違う。節約して切り詰めて這い登ってきた親父と、初っ端から生活になんら困ることがない、将来も安泰のように思われる俺と。この、実体の無い、バブルのような生活が、不安で、不気味で、怖くて仕方ない。一方で、この生活に慣れて、満足して、安心している面もある。

 約1ヶ月、体壊すまで働いた農家でのアルバイトは、20万にもならなかった。朝5時から夜9時まで、ひたすら外で働いて。居酒屋で働いてたときは、
確かあれは時給750円で、月に4、5回のシフトでは2万円もいかなかった。だけど、いや、だからこそ、陳腐な言い方だけど、頂いた金に重みがあった。「その金に値する働きはした」と、胸を張って受け取れた。

 つまり。何をぐだぐだ書いているのかというと、堂々と、「俺はこれだけ金を稼いでいるんだ」と言えないということなんだ。「稼いだ」じゃない。「給料を頂いている」という感覚。そして、どこか後ろめたい。3万近くするアイポッドを思いつきで買っちゃった同期も、「こんな給料もらってていいのかな」と漏らしたことがある。まったく同感だ。同感だけど、そいつも俺も、「まぁ、いいのかなぁ」と、ずるずる生きている。

 ねぇ。言葉通り「身をすり減らして」日銭を稼ぐ人がいるのに、「それなりに」って程度で仕事に就いて、高い金をもらい、「優雅な」生活を送る人もいて。おかしくねぇか。そりゃあ、勤務時間は長いし、「記者は寝るとき意外はすべてが仕事なんだ」とか言う上司はいるし、ストレスはたくさんありますよ。それでも、自分の給与明細とか見て、いまだに首をかしげてしまう。「こんな貰っていいのか、おかしくねえか、これは」って。

 世の中って、もっと厳しいところだと思ってた。だけど、こんな俺でも、とりあえずなんとかやってけちゃったりする。こんなに給料もらっていいのかなぁと、不思議に思いながらさ。このまま今の仕事を続けるのならば、より高くなっていく給料に対して、「当たり前」と思い何も感じなくなってしまうのか、それとも、金に見合う仕事をしたと思えるようになるのか。

 悩むまでもないのかもしれない。居酒屋のバイトを辞める際、跡継ぎを探したのだけれど、誰も捕まらなかった。「いまどきそんな時給で働く人いないんじゃないですか」などと言われて、むっとした。じゃあお前は、時給750円以上の価値がある人間なんだな。どれくらいの価値を付けるんだ。1000円だったら働くのか。俺なんかより、ずっとましな人材なんだろうな。

 「ティッシュ配りなんて、大卒の仕事じゃねぇ」とぼやいて辞めた知人の、気持ちは分かるけれど。「じゃぁ貴方は貰った金に見合う働きをしたのか」とも思う。まぁ、実際にティッシュを配る経験をしたことのない俺がなに言ったって、無駄なんだけど。「恵まれた」環境で、金に生活に困った経験もなく、アルバイトも「自分探し」やら「社会経験」やらでやっていただけの身だから。そんな俺が、労働について語れば語るほど、空疎なんだけど。

 そんなこと思いながら、また月曜日を迎え。スーツ着て、会社に行く。


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