まだ胸を張って「新人です」と言えたころ、先輩にこう尋ねられた。「どう?仕事、慣れてきた?」「いやー、まだまだっすよ。色々不安とかありますよ」「不安って?」「いや、そうですね、たとえば、このままでいいのかなぁとか、あれやらなきゃこれやらなきゃとか、まぁいろいろありますけど」「へぇ。・・・その、不安の源泉って、なんなんだろうね」「はぁ。不安の源泉って、なんか哲学的ですね。はは。」「・・・そうかなぁ」
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胃が痛かった。胃の中にすりこぎをぶち込まれてゴリゴリ内壁を削ると出てくる苦い汁が喉をつたって這い上がってくるような気持ち悪さに泣きそうだった。学生のころなら笑いながら「いやぁまた単位落としちゃったよー」なんてほざけたけれど、今は曲がりなりにも社会人、かろうじて逃げ出すのを踏みとどまっている。と偉そうに書くのでなく、単に、逃げたら終わり。以上。
いつも使うおにぎり屋の例えを出すならば、経営が軌道に乗ってきたと思ったら、すぐ米びつが空になってしまっていた。超ローテーションで進むこのごろ。不安の源泉?しばらく考えてみて、思い当たる点は3つある。日々記事を出さねばいけないプレッシャー。締め切りを守らなければならないプレッシャー。書いたものについて責任を取らねばならないプレッシャー。
たまたま社長人事すっぱ抜いて上司に「よくやった」と誉められたり、「この前書いてもらったおかげで株価がストップ高になりましたよ」と言われたり、「あの記事、コピーして全社員に配ってがんばろーって言ってるんですよ」と伝えられたり。そういう声を聞けば聞くほど、書くのが怖くなる。俺は 、あんたらのために、働いてるんじゃない。だけど、「一応俺が書いたことも意味が持たれている」なんて、そういう声にすがってみたりもする。
このごろよく、以前先輩に言われた言葉を思い出す。「楽しんで仕事しなきゃだめだよ」。そんなん分かってる。「これおもしろいな」だとか「これはどうなってるんだろう」だとか好奇心で仕事できるなら、それにこしたことはない。「あれやらなきゃ」、「これもやらなきゃ」って義務感だけで動いていることほど辛いものなんてない。そんなんとっくに分かってる。
「楽しめる」には余裕が必要だってば。目先のことでいっぱいいっぱいなのに、「楽しむ」だなんて。だから、仕方がないから、自分に求められているレベルを、または自分に求められていると自分が考えているレベルを、80%くらいの力で片付けられる日が早く来ないかなぁなんて夢見ている。そしたら楽しめる余裕も出てくるんじゃないか、うまく回るんじゃないか、って。
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なんてことを考えながら、胃がギリギリ痛むのをこらえながら、会社に戻る道の途中に花屋があって、なんともいえない香りが漂ってきた。あぁ、自室に花でも飾ろうかな。だけど、日の光がほとんど射さないから、すぐ枯れるよな。なんか生き物でも飼おうか。だけど、煙草の煙が立ち込める部屋で、水をかえてやるのも一日一回程度だったら、すぐあの世にいっちまうよな。
なんて思ったから、仕方なくサボテンを買うことにした。
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