V字経営研究所・酒井英之の4行日記 DiaryINDEX|past|will
「私たちが見つめているのはお客様の未来です」ある外資系証券会社のスローガンです。この会社は、決して売り込まず、顧客に寄り添うことを徹底している業界でも珍しいプライベートバンカーの集団。同社の営業マンを指導するため、同社のエース級のセールスマンたちの体験談を集める機会がありました。すると次のような意見がありました。「証券業界には、営業担当者が自分の成績向上のためお客様に無理やり商品を売る習慣が根強い。当社が最後の砦にならなきゃいけないと思う」。この人は業界No.1証券会社の強引なやり方嫌気がさしてこの外資系に転職してきた人でした。また、破たんした山一証券会社から転職した女性もいました。彼女は、「私は利益一辺倒の証券業界を自分が変えるつもりでやってきた」と語っていました。どちらもすごい覚悟だと感動しましたが、「大義ある志のために私は〇〇する」と決めて、それを守る生き方こそ、誰にでも誇るべき生き方ですね。会社はそういう人が活躍できる大きなコロッセオ(スタジアム)でありたいものです。
バイク「ダーリング号」もそのひとつ。バイク事業は伊勢湾台風で工場が流されて撤退しましたが、そのときのブラザー製のエンジンが展示されています。確かに成功例よりも、失敗例からの方が多くの気づきを得られますよね。私は同社在籍時代に、営業マンとして後に事業撤退するカラーコピー機を担当した経験があります。その経験からの気づきを拙著『稼ぐチームの作り方』(PHP研究所)に書いたのですが、そのことを恐る恐る安井社長に伝えると「それがいいのだ!」と褒めていただきました。そのカラーコピー機も展示されています。自らの失敗を、他者の成功のために活かそうとする姿勢。その度量に感服するしかありませんでした。
自分が務めていたブラザー工業の前社長(現相談役)と話したときのこと同社は同社の歴史を物語る無料の展示館「ブラザー・ミュージアム」を名古屋市瑞穂区にオープンしています。そこにはヒット商品ばかりでなく世に出したが売れなかった「失敗作」も数多く展示しています。「世の中、人に聞く話も見せるモノも皆、成功事例ばかり。それでは「学び」は深まらない」。安井社長はそう考えて、事業撤退した失敗商品たちも数多く展示したのです。
朝礼で3分間スピーチや決意表明を行う会社は珍しくありません。が、毎日1分間黙想させている会社もあります。その1分間で、理念を思い起こし、それに照らして昨日を振り返り、反省し、新たな気持ちで今日の仕事に向かうことが狙いです。前日を振り返ることは、誰もがその重要性を知りながら、なかなか習慣化されていません。毎朝の黙想は、自分を見つめる良い機会になるでしょう。剣道ナビによると黙想とは自分の考えを整理したり、自分の意識を集中させて深層心理に触れ、新しい気づきを得ることそしてこれから自分がどのように上達するのかをしっかりイメージするための時間だといいます。そんな時間がどの会社にも必要ですね。
リーダーが夢を語る時、その語尾で人がついて来るかどうかが分かれます。もし「私はこうする!」と断定的に語ると、それを信じついていく社員が多数生まれます。しかし、その社員たちはリーダーに依存してしまいます。そこで語尾を「私はこうしたい!」に変えます。すると、中国古典の梁山泊のように協力したい人が集まってきます。これは、項羽と劉邦の違いかもしれません。「今はできないが、いずれこうしたい」それだけで役に立ちたいと思う人の数が違います。言葉は大切だけど難しいですね。
スキルは先輩など身近な人から学ぶことができます。が、理念は松下幸之助翁や稲盛和夫さん、身近なところではイチロー選手、中小企業経営者であれば創業家の創業の精神など偉人をメンターにして学ばないと身につきません。今、スキルを学ぶ機会は山ほどあります。が、理念を学ぶ機会は、ほぼありません。ここに、現代社会の溝があります。私は窪田理事長に学んで多くの気づきを得ましたが、理念経営協会は、経営におけるその溝を埋める場となればと思っています。
マッキンゼーで伝説のように言われているプロフェッショナルの定義。「21世紀の社会では、あらゆる分野で、それぞれの専門知識や技術を持ち、組織に属していても、いなくても、自己規律と職業倫理により行動して、顧客や社会の価値を作り出せるプロフェッショナル人材が必要とされると私は確信しています」。素晴らしい定義ですね。とりわけ「自己規律と職業倫理」。最近はビジネスマンに限らず政治家でも芸人でもスポーツ選手でも、ここができていなくて失脚する人が多数います。それは、理念(being)よりスキル(doing)のみを評価してきた社会風潮によるもの。成長期にはOKなことも、成熟期にはNGなのでしょう。
110年続く鮮魚卸・中部魚錠の伊藤社長は、必ず毎週土曜日にしていることがある。それは、朝1時半から厨房に立ち包丁を握り、魚をさばくこと。それをしないと「自分が何屋なのか忘れてしまう」という。そのため社長は土曜日のゴルフには参加せず、日曜日のコンペだけ参加する。このような姿勢の社長を社員はどのように見ているのだろう。社長が社員からリスペクトを集めるのは、こうした生き方によるところが大きい。
世界を代表する300人の段ボール製造機メーカーISOWA(春日井市)。同社には自社の存在感を伝える言葉があります。同社がつくる段ボール製造機がないと、段ボールができません。段ボールがなければ物流ができません。物流が出来なければ、生産も消費もあらゆる経済活動が止まります。だから、彼らは次のように言います。「ISOWAが止まると世界が止まる」。なんだかこの言葉を聴くと、「全力で今日を生きていく!」という気持ちになります。自分の都合で世界を止めるわけには行きませんから。しかしこれは、きっとあなたの会社にも言えること。上司の仕事は「私たちが止まれば、世界が止まる」と部下に気づかせること。コンサルタントの仕事も「貴社が止まれば世界が止まる」と気づかせること。そのくらい、自分たちを必要としてくれる人がいます。そう信じて、今日も全力で頑張りましょう!
通信について、私は技術も何も知らない。あるのは哲学だけだ。哲学一つで本当にこの事業が成功するのか、もし成功したなら、経営に哲学がどれほど大事かということが証明できるはずだ』。同時に『そうはいっても無謀な挑戦には違いないので、失敗するかもしれない。そのときは1000億円まで金を使わせてほしい』とも言いました。」(プレジデントON LINE:稲盛和夫の熱中教室より)そして、見事に第二電電を成功させました。また、日本航空では、メンバーは変えずに心を変えて、たった2年で急回復を実現させました。しかも、第二電電上場の時は、その事業「私心なし」を証明するために、創業者でありながら、個人の株は一切受け取らなかったと言います。理念経営を目指す者としてこんなに力強い実験結果はありません。みなさんはどう思われますか?
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