遅刻した翌朝は、さすがに早く目覚めた。仕事がだいぶ落ち着き、気持ちが安寧を取り戻しつつある。寮の管理を担当している部署に「引越しの費用って出してもらえるのでしょうか」と素直に問い合わせてみたら、それは出来ないと回答された。そこで、規程によれば退寮要件を満たしていない旨を伝えた。担当者はすかさず「そもそも君は通える範囲の場所に自宅があるから、本当は寮には入れなかったんだ。」と返した。僕はこの言葉に返す台詞も用意していたけれど、相手は人事権のある部署なので紛争を起こすわけにいかず、口を閉じた。そして、この時点で引越し費用を求める交渉は無理と思い断念した。ただ、寮規程には規程としての矛盾のみならず、男女雇用機会均等法に反した記述もあったので改正を依頼した。
その3時間後、寮の担当部署から内線がかかってきた。寮を出なくてもいいという。新入社員が一人入寮を取り止めたからだそうだ。しかし、もう遅い。3月中旬で退寮するよう命じられた場合、部屋探しの市場がピークに達する入学入社シーズンを恐れて、早めに引越し先を探すのが自然だろう。僕は10日後に転居する予定を組んで部屋の賃貸借契約日を決めていたし、運送業者とも契約が成立していた。これらの契約を全てキャンセルして家賃の安い寮に固執する熱意はもうない。昔付き合っていた人に「もう一度やり直したい」と言われたらこんな気持ちになるのだろうかと思った。
仕事は9時頃に終わり、部署の先輩2人と珍しく一緒に酒を飲んだ。 // |