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■ 「ミルク。」第2話。
…冬コミの原稿はどうした?
いえね…たまには息抜きが必要なのよ。 「ミルク」は、可愛いアキヒカ子でいこうと思ってます。 いちゃいちゃというか、へたれなアキラさんがメインです。
「ミルク。」第2話。
…くらり、とめまいがした。 低血圧でもないし、寝起きが悪いわけでもない。もちろん貧血でもない。 だが…ある意味、血が引くような気持ちがした。アキラは、そこから先に一歩も進めずに、立ち尽くしていた。
アキラの部屋の前から、ヒカルの部屋を通り過ぎて、玄関へと向かう廊下の片隅に落ちている、白。 それが何かを、両目1.5の視力が認識したとき、アキラは、この同居生活が、予想以上に前途多難になりそうな予感がした。
…たぶん、洗濯しようとしたのだろう。 それは、ヒカルの下着だった。真っ白のシンプルなパンティが、廊下の片隅に落ちていたのだった。
「いらっしゃい、進藤」 「うん…お邪魔します」 「お邪魔します、じゃないよ。もう、今日からここはキミの家なんだから」 アキラの言葉に、ヒカルは真っ赤になりながら、うなずいた。 引越しは割合簡単に済んだ。ヒカルの荷物は、身の回りのもの程度だったし、季節ものの服などは、その時期になったら家から取ってくればいいと、家においてきたものも多かったからだ。 それでも、少ないとはいえ、引越しは引越しだ。朝から荷物を運び込んで、片づけが済んだのはもう夕方といっていい時間帯だった。 「少し休もうか?」 「うん」 アキラの申し出に、ヒカルも手を止めた。アキラの手際のよさも手伝って、もう殆ど片付けは終わっている。 「お茶入れてくるよ」 そういって立ち上がるアキラに、ヒカルもいったんは立ち上がったものの、あ、と声を上げて止まった。 「どうしたの?」 なぜかモジモジとしだしたヒカルに、アキラが声をかける。 「あのさ、オレ、アレだけ片付けちゃうから」 そう言って、ヒカルが指差す先には、一つのダンボール。最初から全く手を付けられていない。 「あれ、片付ければ殆ど終わりだし、オレ、やっちゃうよ」 だから、塔矢はお茶入れて休んでて、というヒカルに、気を使っているのかと思い、アキラは笑顔で答えた。 「じゃあ、ボクも手伝うよ。その方が早いだろう?」 言い終わらないうちに、そのダンボールへと歩み寄るアキラを、ヒカルが慌てて止める。 「あ、いい、いいって!オレが一人で片付けるからっ!」 「え、でも…」 頬をうっすらと染めて、アキラの腕を取ったヒカルに、アキラは不思議そうな目を向ける。さっきまで、どのダンボールを開けるにも、拒否は無かった。もちろん、開ける前にヒカルに確かめたし、大体ダンボール自体に中身が書いてあったので、ヒカルに指示されながら、アキラはてきぱきと片づけを手伝っていたのだ。 だが、あれだけは、何故か中身が何だか、書いてなかった。なので何となくそのまま最後まで置かれていたのだ。 「ホントに、ホントにいいって!」 「…っ!」 必死になってアキラを止めるあまりだろうか。ヒカルは両腕でアキラの左腕にしがみつくようにしてくる。 そのせいで…アキラの腕に、今まで知らない、柔らかい感触が…。 「し…進藤…っ」 「ホラ、お茶入れてきてくれよっ」 ぎゅ。 ぎゅううう。 しがみつかれて、ドアの方に引っ張られる。 左腕に、ふわふわとマシュマロみたいな、でも確かなふくらみの感触。 「な、何…しんどう、な、に…」 突然のことに、動揺しまくったアキラが、その感触は何だと、思わず口にしてしまっていた。 それを、あのダンボールの中身のことだと勘違いしたのか、ヒカルはさらに真っ赤になって、アキラをドアの外に追い出すと、その腕をようやく離した。 「…オレの、その…下着とかだから…」 小さな声で言うと、勢いよくドアを閉めてしまった。 「…した…」 下着。ヒカルの、下着…。 まだまだ修行の足りないアキラの脳裏に、先ほどの感触とあいまって、ヒカルの下着姿が思い浮かんでしまって…。 「…?!」 思わずその場にしゃがみこんでしまった。そうしないと、ごまかせない。 …何が、というのは聞かないで欲しい。アキラは必死になって冷静さを取り戻そうとした。
このまま、トイレに飛び込むのもいかがかと思いますので、どうにかさせてください。
元気になりかけた自分を何とか落ち着け、冷静さを取り戻すために、理性を総動員し、アキラはただただ座り込んでいた。
その後、落ち着いたアキラが、気がついたのは。 「…洗濯とか…あるよな…」 そう。洗濯。それは、服だけではないのだ。 まさか、ヒカルとアキラのものを一緒に洗濯するわけにはいかない。いや、洋服類だけならいいが…それ以外も、もちろんあるのだ。 だが、アキラからそういうこと(下着のこと)を切り出すのも、照れくさいし、何よりヒカルが恥ずかしがってしまうだろう。 ヒカルが片付け終わって出てくるまでの間に、アキラが考え、決めたのは、食事と掃除以外は、自分でやるという提案だった。それも、アキラからさりげなく遠まわしに申し出て、ヒカルを了承させた。 乾燥機があるから、外に干さなくても困ることも無い。 少なくとも…下着類は、ヒカルもアキラの目の前で広げることは無いだろう。アキラはそう思っていた。 約束を守るためにも…この同居生活を続けるためにも。 理性を吹き飛ばすような要因は、なるべく排除したいとアキラは願うのだった。
…だが。 その努力も、初日の夜から無駄になっているようだ。 目の前に落ちているパンティの存在を、どうしたらいいのか。 アキラが気がついたことを知ったら、ヒカルは恥ずかしさに泣き出してしまうかもしれない。 片付けたいのだが、アキラが拾うわけにもいかない。だが、ヒカルは今日はもう疲れたからと、お風呂に入った後、早々に部屋に引っ込んでしまっている。静かだから、寝てしまったのだろう。 (…どうしよう…) そこを通り過ぎないと、アキラはお風呂に入れない。 だが、ヒカルを起こして、『下着が落ちていたよ』なんて…言えない。 っていうか、あれに近づくのさえ、ためらわれる。 だが、気がつかなかった振りも出来ない。
ボクの忍耐度を試そうというのか、進藤っ!!
心の中で叫んでみても、事態は変わらない。 しばし、そこに立ち尽くしたまま、ぐるぐると考えていたアキラに、ある一つの妙案が浮かんだ。 そうっと部屋に戻ると、アキラは携帯電話を手に取った。
…プルルル、プルルル…。 きちんと片付けられた居間に、呼び出し音が鳴り響く。 もう何回もコール音が鳴り響いているが、誰も出ない。あまりに続くので、ヒカルは「?」となった。 (塔矢…お風呂にでも入っているのかな?) もしかしたら、ヒカルの家からかもしれない。ヒカルはまだ携帯を持っていなかったので、電話といったらこちらにかけてくるしかない。引越しを機に買うつもりではいたが、まだ買っていなかったのだ。 眠ろうとしてベッドに入りかけていた体を起こし、ドアを開けて、電話機が置いてある方に目をやると。 「………っ?!」 視界に入ったのは、自分の下着。 さっき、お風呂に入ったときに脱いだ下着が、落ちたらしい。 (と、塔矢は…っ?!) ここに落ちているということは、お風呂に入っているのなら、気がついたに違いない。 あまりのショックに、どたばたと音を立てて駆け寄ると、慌てて拾い上げ、部屋に戻ろうとした、そのときだ。 「あれ、電話、なってた?」 アキラの部屋のドアが開き、アキラが顔を出した。 「あ、うん、なって、た、みたい、だけど」 動揺のあまり、ヒカルはどもりがちになってしまっていた。それを気にするふうもなく、アキラが言った。 「でも、切れちゃったみたいだね…ボク、ちょっと手を離せなかったから…誰だろう」 「さ、さあ…」 後ろ手に、先ほど拾った下着を隠しながら、ヒカルは引きつった笑顔を浮かべる。そんなヒカルを見て、アキラは言った。 「あ、ごめん、寝ていたのかい?起こしてごめんね。ボクもそろそろお風呂に入って寝るから、キミも寝た方がいいよ。明日は休みだったよね?」 うんうん、とうなずくヒカルに、アキラはにっこりと微笑みかける。 「ボクはちょっと仕事があるけれど、朝ご飯は一緒に食べようね」 うんうん、と、これまた激しくうなずくヒカルは、そのまま固まった笑顔で、お休み、と言うと、ドアを閉めた。 「…お休み」 そういいながら、ちらりと目をやると、廊下から落し物は消えていた。 後ろ手に持っていた、携帯を机の上に置く。これで家の回線にかけて、呼び出し音を鳴らしたままにして、ヒカルを部屋から誘い出す、というのがアキラの立てた作戦だったのだ。そしてそれはどうにか成功したらしい。なかなかアキラが部屋から出なかったことにすら、疑問を持たなかったことからも推測できる。 (……神様、どうかこれ以上ボクを試さないで下さい……) 切なく願ってみるアキラであった。 だがしかし、これが初日である。これからが、本番なのだ。 ため息をつき、アキラは今日かいた汗(労働の汗と、冷汗)を流しに、お風呂場へと向かったのだった。
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…ヒカルの下着を見て、動揺するアキラさん。 まだまだ修行が足りないので、もっともっと耐えていただきます(笑)。 結構「ミルク」、好きだといってくださる方がいらっしゃって、嬉しい限り。 他の連載も、原稿が終わり次第、更新再開します。っていうか、めざせ2日に1回の更新!ですわ。←無理。
…さて、原稿に戻ろうかね〜。
2003年11月21日(金)
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