朝、娘を幼稚園に送っていく。一番最初のお仕度「上履きに履き替える」到達までに、毎朝ずいぶん時間がかかる。
カーサンの腕をぎゅっと握って離さないこともある。離していても、カーサンの足に寄りかかったり、なんとなくもぞもぞと接触を保とうとしている。
泣いたりするわけではない。教室の中のお友達の様子を見ている。或いは先生を見ている。
気を遣ってくれるお友達のオカーサンが「ほら、ゆかちゃんに「一緒に行こう」って誘ってあげようよ」とオコサンに声を掛けたりしてくれることもあるが、たとえそのお友達が「イコウ」と手を差し伸べてくれたとしても、娘は首を振るくらいで、しばらくその場に立ち尽くし続ける。
送ったあとにカーサン用事が控えている場合、「早くしてくれないかな」とイライラすることもある。オカーサン困るんだよなあ、という素振りを大仰にしてみたりもする。あまり効果はないのに。
「先生と一緒に行こう」という優しいお誘いにも、この頃乗らない。
「よくつきあっていられるね、私だったらさっさとバイバイしちゃう」と笑うオカーサンもいるが、カーサン娘が自分から「イッテキマス」と手を振るまで、ついつい長居してしまう。
娘の中で準備が整うまで、出来れば待ってやりたい。うん、本当はさほど苦ではないんだ。皆さんの手前、ちょっとバツが悪くて「甘い母親じゃないのよ」みたいなポーズを取る辺りが小心者。
娘が黙って立ち尽くしている間に、どんどん他のお友達が教室に入っていく。毎朝何人にも追い越される。
家を出る前には「早くしなさい」と声を荒げるくせに、カーサンどういうわけだか、このシチュエーションに限って「待つ」。
娘が笑顔で「イッテキマス」と手を振る、その時が来るまで、10分だか15分だかの間。娘の目が何を見ているのか、娘の小さな頭が何を考えているのか、それとも自分自身が幼稚園に通っていた頃の、あのどこか心許ない気分を思い出して、実はそれを味わって楽しんでいるのかもしれない。
などと余裕のありそうなことを書く日もある。最近カリカリイライラしてた反動かしらん。
昨日帰宅した夫に「(去年の)今日入院したんだよな」と言われるまで、それを忘れていた。朝から役員会だの昼まで懇親会だの、午後はMちゃんをお招きするだの、やけにばたばたした一日だったから。
その前の週末に、娘の前歯に穴が開いているのを発見し、「抜くに違いない」と悲観が膨らんだついでに「そろそろ1年経ちますね」と入院前後の記憶がぶわーっと蘇って暴発。既にそういう大波が来て済んでいたから、ってのもあるかもしれない。
一番鋭く鮮明に残っている感覚は、近所の小児科からN大I病院の小児病棟に落ち着くまでの数時間だ。
採尿したいのに出なくて、自転車でうろうろしたこと。
コンビニでおにぎりを買って、自転車に乗せたまま食べさせた公園の木陰。
あらかじめネットで調べて覚悟していた病名だったのに、やはり後頭部ハンマー一撃的ショックを受けたこと。
N大I病院までのタクシーから見たあじさいの花の色。
運転手さんがずーっとあじさいと酸性アルカリ性について語っていたこと。
一通り入院に必要な検査が済むまで、何度か衝撃波みたいなものを受けながら、しかしここで泣いてる場合じゃないと気丈な母のふりをしたこと。
夫が病室に来て、点滴や導尿でチューブをたくさんつけて横たわる娘を見て泣いたこと。
その涙を見て、ようやく「泣いていいんだ」と思ったこと。
いつでもここまでの一通りの流れが、どどどっとひとまとめになって押し寄せてくる。大概ノンストップなので困る。
6月は嫌い、あじさいは嫌い、入院の記憶とリンクしすぎているから。否応なしに思い出させるから。などと思って泣いたりした。夜だったし。カーサン1人盛り上がってしまった先週末。
ちなみに娘の歯の穴は埋めれば済むことらしく、大事には至らないと、本日かかりつけの歯医者談。ひと安心。
6月7日は、娘が入院した日でもあり、長いつきあいの友達の誕生日であり、姪の誕生日でもある。二人の誕生日にそれぞれメッセージを贈りたかったのにな。少し遅くなるけどカードを送ろう。
ほんの数日前とは手の平を返したように、何故かしら、あじさいの花も嫌いじゃない。6月も。
公園で泥遊びしたからではないと思うが、昨夜から娘の風邪らしさは度を増し、鼻水垂れる→咳き込む→もどす、という、いつものマーライオン王道を行く具合悪さ。なんか先月も先々月もやったような気がするけど。月イチ恒例、いや月例?
朝から娘くしゃみを連発し、そのたびに「鼻水が出た」と泣いて激怒。睡眠が足りていないから余計に始末が悪い。
明日は是非登園していただきたいという大人の都合もあり、幼稚園を休ませて小児科へ連れて行くことにした。
月曜の午前中の小児科、予約時間前に受付を済ませてはみたが、待合室に座る場所すらない。熱気すら感じる。
さて娘、熱もなく、くしゃみ鼻水セキ、という症状がやはり前回と同じ。風邪では無さそうなので抗生剤は出ず、次回は抗アレルギー剤でも考えてみましょうか、と先生。そして夜になると悪化すると告げると、布団のハウスダストもあるかもね、天日で干して掃除機かけて、やってみてと言われる。
ええ、早速買いに行きましたよアレルクリン。夫が試したがっていたしね>アレルギー系鼻炎持ち家族。
帰宅してから急いで外に布団を干して、シュッシュとスプレー・・・と、風向きが変わって飛沫がカーサンの顔直撃。
それからずっと、今こうしてPCに向かっている今も、鼻水が止まらないんですが。カーサンの鼻の穴の中まで清潔にしてくれているんだろうか>アレルクリン。効く・・・のか?
最近娘の週末限定の喜びは、オトーサンと朝ごはんを一緒に食べられること、オトーサンと公園に行くこと。
平日オトーサンの「いってきます」ギリギリで起床しているからねえ・・・、あ、娘だけじゃなく妻も。ほほほ。
公園は先週から、「オトーチャンといってきます、オカーチャンはオルスバン」と娘が引導を渡すようになり、カーサン寂しいやらトーサン目が虚ろやら。
寂しいけど、その隙に安心して身軽に行動できるので大変有難い。おかげで「1人になりたい」熱もこの頃はおとなしくしている。
そしてオトーサンと公園に行った娘は、泥団子やら泥カラアゲやら泥ハンバーグやらを作っては振舞っているらしい。風邪気味だからお砂場で水を使うなと言ったのに。甘いんだからオトーサン。 ※「いっかいだけちたのよ、おみず」と正直に打ち明ける娘、妻にキッと睨まれ「黙っときゃバレないのに」と余計なことを口走る夫。
以前は平日叶わないから、外食だ買い物だ、出歩かなきゃ損損損、という週末を過ごしていたけど、この頃どこにも行かなくても楽しい。週末台所に立つのも苦じゃない。
まるで、自分の幼少期の週末を再現し始めたような感覚。ええ、「なにもない日曜日の午後」ですよ奥さん(←スガシカオ楽曲でございます、但しテイストもベクトルもこの日記の文脈とは全くかけ離れております)。
掃除をしたらジーンズの膝が抜けまくった。最近履き回していた二着とも洗濯カゴに入ったため、タンスを探って、先日の処分熱を回避した貴重なブラックジーンズをひっぱり出してきた。
掃いてみたらポケットに何か入っている。やあね、洗濯もせずにタンスにしまいっぱなしだったのかしら。ごそごそポケットの中身をほじくり出すと、薄いピンクの不織布のマスクが出てきた。
マスクを手に、しばし見つめてしまう。
これは入院中に、病室に入るとき必須だったマスク。
ってことは、1年くらいこのジーンズ寝かしてたのね。
もう6月。去年の今頃は、娘の覇気が無くて無くて、でも熱も咳もなくて小児科に連れていくのをためらっていたんだっけ。
うーん。元気になったもんだなあ。と、娘と手をつないで、小雨の中、幼稚園に送っていった。
しかし、ジーンズやタンスをタイムカプセル化するのはやめなくては。
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